JAPAN SENSES日本のすがた・かたち

2020.09.05
伊勢志摩、奇跡の自然地形と人の営み

進行中のプロジェクトがあり、昨年からちょくちょく伊勢志摩に通っています。
しばらくコロナでストップしていましたが先日久々に現地リサーチへ。真夏の伊勢志摩は、黒潮が近いからか、入り組んだ地形で風が抜けないからか、南国のような蒸し暑さ!でした。

近鉄鵜方駅から車で15分、横山展望台から眺める英虞湾のパノラマは日本各地の景勝地の中でも大好きな風景の一つ。
こんな風景をつくってしまう地球の営みのダイナミックさ、1億年を超える時間のスケール、そしてその過程にあったいくつもの偶然の重なりに、ただただ驚かされます。この究極的な自然のアートを目の当たりにするたびに、「ああ、生きててよかったナア」としか言いようのない喜びがじんわり湧き上がってきます。


日本一の海女文化。1300年以上の歴史を紡ぐ伊勢神宮と式年遷宮。世界に名を馳せた真珠養殖。
いくつもの突き抜けた魅力がある伊勢志摩ですが、それらを根底で支えているのは「リアス海岸」を中心とした奇跡的な自然条件の重なりにあるように思えてなりません。

リアス海岸は三陸も有名ですが、海岸をよく見ていくとだいぶ様子が異なります。
伊勢志摩の複雑に入り組んだ湾は、1億年以上前から続く地殻変動や海水面変化によってつくられたもの。段々畑を横にぐーっと広げたような「海岸段丘」と呼ばれる地形に、海面上昇によって水が入り込んだ状態になっています。なので海底は平らで、一定の深さが沖合まで続く。この海底には太陽の光が届くので、アマモ類などの海藻類がとても豊富に育ち、それらを餌にするアワビやサザエが多く生息します。この地形条件が数千年前から日本一の海女文化を支えてきました。
また、伊勢湾に流れ込む栄養豊富な河川水、伊勢湾口でぶつかる温暖な黒潮といった条件も海産物の豊富さに大きく影響しています。山から流れ出る多くの栄養分が海藻や動物プランクトンを育て、それを食べる小魚が寄り付き、さらにそれを追いかけて黒潮の回遊魚が入り込んでくる…。山と海がつながった豊かな自然の循環が息づく土地です。

伊勢神宮がこの地と定められたのも、海産資源の豊富さが大きく影響していたはず。現在も天照大神へ献上されるアワビは志摩半島の一番東に位置する国崎の浜で獲られたものに限るそうです。たしかに、伊勢志摩で一番最初に朝日を浴びる国崎の浜で獲れたアワビは太陽神・天照大神への献上物としてはうってつけな気がします。
また、伊勢神宮は5,500haの「宮域林」を持っていて、200年後の遷宮行事に用いる用材を育成する独自の管理を行っています。鎌倉時代までに一度刈り尽くされてしまった宮域林ですが、大正時代に再び植樹などを再開。2015年の第62回の式年遷宮では宮域林の間伐材を一部に使うことができたそうです。鎌倉時代以来実に700年ぶりのこと、大正時代から90年かけてやっとここまでたどり着いたと。
ちなみに、用材に用いるヒノキだけでなく照葉樹なども織り交ぜた混合林を目指しているとのこと。様々な樹種が混ざりあうことで土の中で根が複雑に絡み合い、優れた水源涵養機能につながる。また、落ち葉は微生物などによって分解され、川を通じて多くの栄養分を海に供給します。まさに、この森があるからこそ、伊勢志摩の海の豊かさも守られているようです。

そして英虞湾の真珠養殖。
湾口の水深が浅く、外海(年間を通じて温暖な黒潮)との海水交換が少ない。これによって湾内の海水は気温の影響を受けやすく、夏は高め、冬は低めの水温になります。この適度な温度差が真珠の活性を高めたり、照りを磨いたりするそうです。入り組んだ湾の地形は台風などの災害から筏を守り、大きすぎる河川がなく土砂流入時に塩分濃度が下がらないのも好条件だそうです。こうした条件がいくつも揃っているのは、やはり伊勢志摩意外にはないと。
これからも、科学技術と自然条件ががっちり組み合わさったときには、とんでもないイノベーションが起きるのかも知れません。そういう意味ではワーケーションとか本社の地方移転とかは思いもよらぬ可能性を生むのかも。

自然地形と人々の営みの関わりがここまで色濃く感じられる土地もなかなかないのではないでしょうか。知れば知るほど面白く、これからへの学びもある。
ブラタモリのように風景の裏を読むようなディープな旅が好みな人には、是非オススメしたいところです。

横山展望台から眺める英虞湾の風景。海水面と平坦な段丘が入り組んでいるのが特徴です。大昔、この一帯が水面下にあった時代に波によって削られて、こんなに平坦になっているそうです。

あちこちに真珠や海苔の養殖筏が浮かんでいます。これも伊勢志摩ならではの風景。

神宮林のあたりにある天岩戸。ここら辺も大昔は海の底でした。

海の博物館。海女文化のことがよくわかります。

全国から集められた貴重な木造船の倉庫!ここは圧巻です。ロマンに当てられて鼻血が出そう。

伊勢神宮外宮にある「せんぐう館」。

志摩マリンランドという水族館にて。海女さんもマスク姿。

トバリュウの化石が見つかった海岸。

雨上がりの虹。二重になっていた!

伊勢志摩グルメといえばてこね寿司。鵜方駅近くにある「おとや 」さんのがお気に入りです。ひっそりと忍ばせた針生姜がうまい。