SAKE FOR CREATIVE頭を遊ばせる時間

2016.10.17
或るマタギが生み出してしまった魔境「囲炉裏 やましげ」

湯の山温泉駅から御在所ロープウェイ方面へ昼食の場所を求めながら歩いて15分。
道端に自信に満ち溢れた文体の手描き看板が飛び込んできます。
「川魚 ジビエ 焼肉おいしいよ~ 囲炉裏やましげ」
やられた!こういうお店に弱いのは周知の通り。フラフラと脇道に逸れてお店の玄関を目指します。

マタギの親父が気まぐれでやっている店といった佇まいでなかなか素敵です。ただ、木立の合間でビカビカ点滅する「営業中」の電光掲示板が、「ここにそれを置くのかよ!」と全力でツッコミたくなるような違和感と、ある意味マタギらしいゲンキンな商売っ気を垣間見せます。これはこれである種の純度の高さを感じさせます。

矢印に沿って進むと、マタギの親父さんが竹やぶの熊のように脇から突然現れます。
「いらっしゃい~。うちは定食とかやってないけど大丈夫?あ、大丈夫なのね?じゃあこちらへどうぞ~」
OK、望むところ。昼食ですが定食を食べたいわけではありません。口に合わなかろうがユニークなものを食べてみたいのです。
店主が歩き出した先にある庭を見渡すと、かつてテラス席であっただろう場所が廃墟のようになっています。うわあ。テンションが上がってきます。なんなんだろうこの魔境は。
そして、店の様子はかなりカオティックですが、いたってマイルドな雰囲気の店主もいい味を出しています。

さて、店主について向かう先には東屋が3つ。
どうやらこの中に囲炉裏席があって、そこで食事をするようです。あ、店名にも囲炉裏ってついてましたものね。
席についてみると、囲炉裏は使わないようで、蓋がしてあります。壁面に貼られたメニューを眺めると、なかなか個性的なものがたくさん。
「しし鍋」「川魚塩焼」「かもステーキ」「手作り燻製」「タイカレー(ん?)」

川魚が何かをお尋ねすると、「アマゴ」とのこと。それは珍しい。関西ではよく食べるというけれど、関東ではなかなかお目見えしません。お造りと、塩焼きをお願いします。川魚釜飯も気になります。鮎が一尾丸ごと入っているとのこと。これもお願いします。
また、せっかくなので「しか焼」もオーダー。

待つこと10分くらい、七輪とともに串に刺さったアマゴが登場。目の前でじっくり焼きあがるのを見守りながらとはにくい演出です。簡単に焼き方の指南を受けて、焼き始めます。
次に釜飯が登場。ただしこちらも火をかけてある状態で、炊けるまでの時間を待つようにとのこと。

アマゴの世話をしていると、お造りが登場。添えられてくるのは練りわさびではなく茎わさび。アマゴの身質はとっても柔らかく、クセのない味わい。茎わさびの爽やかな辛味がバッチリ合います。これは美味しい。

ちょうどアマゴを食べ終わった頃に、しか焼きが登場。赤身肉を鉄板で焼いていただきます。イノシシなどと違って脂自体が少なく、また臭みもほとんどないので食べやすいジビエです。しか肉は結構好物という人が多いです。これまで食べたものは大和煮のようになっていることが多かったですが、こうやってシンプルに焼いて食べるのも美味しいです。

続いてアマゴも焼きあがりました。頭からかぶりつきます。香ばしく上品な脂の香り。白身の味はニジマスやイワナよりクセがなく、それでいて濃厚な旨味を持っているように感じます。これはいいものをいただいた。

塩焼きを食べ終わった頃、計ったように釜飯が炊き上がりました。鮎の骨を抜いて、混ぜ合わせていただきます。もちろん内臓も一緒に混ぜ込みます。これがまた絶品でした。鮎の香りというのはなんでこんなに食欲をそそるんでしょうか。味付けは醤油と出汁、酒くらいのシンプルなもので、その分噛めば噛むほど鮎と米の味が混ざり合って素晴らしい美味しさが生まれてきます。

「口にあったかな?え、美味しかった?そう、よかった~」
店の脇を流れる神明川は、昔から随分水量が減ってしまったとのこと。その分イノシシやシカが畑を荒らすようになってしまい、近辺では農家はできないほど、と嘆きます。

帰り際、ジビエ猟のことも色々話を聞きました。
美味しいジビエ肉の為に一番重要なのは血が全身に行き渡ってない状態で一発で仕留めること。これは魚と同じですね。苦しみ暴れまわった後の魚は、全身の細胞に血が巡ってしまって味が大幅に落ちてしまいます。ジビエも同様で、鉄砲で撃つにせよ一発で急所を撃つのがベストだし、罠猟にしても引っかかった直後は興奮しているので、数日置いて落ち着かせてから一発で締めるのが良いそうです。ただ、罠猟はともかく一発で仕留められるような鉄砲技術をもつマタギはもうほとんどいないとのこと。

巷のレストランはジビエ人気で盛り上がっていますが、山の方ではいろいろ複雑な事情もあるようです。農作物への獣害がどんどん増えているのである程度の間引きは必要です。これからは鉄砲や罠以外の進化した「狩猟技術」が誕生したりして、より美味しく安全なジビエの流通も増えるのかもしれませんね。ただ、需要と供給のバランスが崩れすぎると、良からぬことも増えるのでそこはちょっと心配でもあったり。

森のなかに突如現れる違和感。しかしこういう雰囲気こそが大好物である。よくぞ見つけた。自分を褒めたい。

森のなかに立つ一軒家。雰囲気自体はのどかなものだが。

突如現れるマタギのご主人。家の中に通されるかと思ったら、庭の方へすたすた歩いて行く。右手に見えるひっくり返った椅子とテーブルはかつてのテラス席の名残か。質問をするのはやめておいた。

向かう先はこんな感じの東屋3棟。ついていってほんとうに大丈夫なのだろうか。

中に入ったところ。壁に貼られたメニューがいちいち面白い。どれも食べてみたくなる不思議な訴求力を持っている。ちなみに角ハイは300円だった。

メニューの一部。川魚がアマゴと聞くと、まずはそれが気になってしまう。アユ釜飯も即決だった。

アマゴの塩焼き。生の状態から、目の前の七輪で焼いていくのが楽しい。アマゴは体表にオレンジ色の斑点がある美しい魚だ。

アマゴの刺身。とにかく上品な味の濃さ、そしてやわらかい。茎ワサビが合うのが意外だった。覚えておこう。

主人がシカ肉を持ってきてくれた。アマゴ刺身が美味しいと伝えると照れながら喜んでくれた。よかった。

シカ肉を焼く。焼きが足りないと生臭みが出るので、気持ち火を多めに通したほうがいい。柔らかい肉ではないが、噛んでいると肉のうまみが出てくる。クセはそれほどない。

アユ釜飯。これは大好物。内臓のほろ苦さがご飯全体に行き渡らせる。例えようのない滋味深い味わい。