POWER OF SPRING温泉力をもらいに

2017.04.04
7万年の刻を超えて「虹岳島温泉 虹岳島荘」

福井県は三方五湖に「水月湖」という汽水湖があります。

それほど知られていないと思いますが、実はこの水月湖、世界から暑い注目を浴びている湖です。
この湖の底には、7万年以上の歳月をかけて積み重なった「年縞(ねんこう)」と呼ばれる縞模様があります。水月湖の年縞は、いくつかの奇跡が重なってできた世界的に珍しい貴重なもので、考古学や地質学における年代測定の「世界標準ものさし」に採用されました。(2013年)

「世界の標準時が英グリニッジ天文台を基準にしているのと同様,今後は水月湖が地質年代の世界標準時になる」
そう語る学者さんもおられるようです。

なぜこれほど特異な地層が生まれたかというと、
・周囲をぐるりと山に囲まれているため風が吹き込まず、波立たない
・浅瀬のようなものがほとんどない急深な湖。湖底部は貧栄養になるため生物が生息できず、底の堆積物を荒らされることがない。
・大きな河川が繋がっておらず、水流による撹拌が起きづらい
・堆積物には季節ごとに規則だった違いがある
などなど、いくつもの条件が奇跡的に折り重なったから、だそうです。

三方五湖周辺では縄文時代の史跡、遺物が数多く出土しており、水月湖の年縞と合わせて非常に精度が高い年代測定ができるようになっています。
そんなこともあり、近くにある三方縄文博物館は充実した展示内容でオススメのミュージアムです。


さて、この水月湖のほとりにぽつんと佇むのが虹岳島温泉「虹岳島荘」です。

建物が湖にせり出していて、中から外を眺めると湖上に浮かんでいるような印象。
アヒルやガンが湖を気持ちよさそうに漂っていて、なんとものどかな風情です(ここら三方五湖周辺はラムサール条約に基づく登録湿地にもなっています)。
また、部屋の下にある桟橋からは宿泊客限定で釣り糸を出せるそうで、ウナギ、コイ、サヨリなどの穴場になっているとのこと。ウナギのシーズンだったら間違いなくトライしていましたが、時期的に難しかったので断念しました。

湖のほとりはぐるりと一周できる遊歩道が整備されていて、レンタサイクルで巡ることができます。
伺ったのはちょうど梅の花が咲き始めた頃で、自転車で走っていると梅の花のほのかな甘い香りが漂ってきたのを覚えています。
湖面を漂う、数百羽はいそうな渡り鳥たち。近づくと一斉に飛び立ってしまいました。
せっかくの休息を邪魔してしまい申し訳ない気持ちになりましたが、大きくうねりながら次々と変化していく群れの動きは、見ていて飽きることがありませんでした。

虹岳島荘は単純泉。わずかにラドンを含む放射能泉であるようです。溶存物質量は78mg/kgなのでかなり薄めの温泉です。
また、湧出量がたっぷりというわけではないので残念ながら加温循環でしたが…
それでも夕焼どき、湖の渡り鳥たちを眺めながら入る露天風呂はなんとも心が和む体験でした。


翌朝、朝食を済ませてコーヒーを飲んでいると、
宿のご主人がバケツをふたつ持って勝手口に向かっていきます。

勝手口を出たとたん、湖の周囲を囲む山の樹々から、「ざわっ」といっせいに何かが飛び立ったのを感じました。
みるみるうちに頭上に集まってきたのは、数十羽のおおきなトンビたち。
ご主人の頭上を旋回しながら、バケツの中にあるお目当の残飯を待ちわびているようでした。
毎日、この時間に、この場所で、というのが決まっているのでしょう。
空腹を満たすと、彼らはまた山に帰っていきました。


あまりにのどかな湖面は、いっぽうで底知れない不気味さも感じさせる。

ちょっととぼけるように、いつも変わらない顔を見せ続ける水月湖。
7万年という時間も宇宙や地球にとっては一瞬か。
いや、かれらにとって在るのは「今」だけか…。

とてもはかりしれない、大きすぎるものの傍らで生きるご主人を、
ちょっとうらまやしく、そして少しおそろしくも思った。

この日は快晴。お椀のように山に囲まれた水月湖の周囲を自転車で巡る。
湖畔はずっと平坦なので走りやすくて快適だ。時おり野生動物のフンなども落ちている。

水月湖に流れ込む川。
湖全体を静寂が包み込んでいる。穏やかな春の陽射しが心地よい。ウナギ漁の網を仕掛けている人を見かけた。

虹岳島荘の入り口付近。立派な茅葺の門がある。雪はまだところどころ残っていた。

エントランスは広々、綺麗に整っている。虹岳島荘の紋がかわいらしい。

虹岳島荘ほとりにある桟橋。春にはサヨリが大漁らしい。

男風呂。他客はそれほどおらず、のんびり浸かることができた。湖面はすぐそこだ。

手長海老、バイ貝、越前がに、アマダイと福井らしい食材が並ぶ。あまり土地のイメージがなかったがアオリイカの刺身も抜群にうまかった。

二日目の夜に出てきた郷土料理の鯖寿司。夕餉の一品目にこれが出てきてビックリ。少食な人はたぶんこれだけでお腹いっぱいだ。

翌朝、トンビの群れと戯れるご主人。トンビもそれなりに大きく、あれだけ間近で大群が飛び回っていると大迫力のショーになる。

今日も変わらない水月湖を静かに眺めるご主人。この場所で生まれて育った人。水月湖は自分の一部…違うか。水月湖の一部に自分が在る感覚だろうか。

三方五湖周辺はウナギが有名だ。この土地固有で「口細青鰻」という天然モノが知られている。湖底に棲むゴカイを主に食べるために口が細く尖っており、旨味が強く美味いのだとか。

評判通りのお味でした。あっさり目のタレだが身質がきめ細かく味がしっかりしている。

古墳のような建築の若狭三方縄文博物館。かなり重厚なつくりだ。

館内もダイナミック。かつて大木が林立していたという若狭の縄文の森が建築コンセプトかもしれない。

道の駅三方五湖、店内。鯖のへしこ、地ワカメ、特産物の梅干し、鮒寿司なんかもあった。

産直コーナーで販売されていた桜島大根。まるで熱帯植物のよう。

福井に滞在中はとにかく毎日サバを食べる。特に若狭は「浜焼きサバ」が有名だ。豪快だが脂の旨味をうまく引き出す焼きっぷり。焦がしバターのような何とも芳しい香りが食欲をそそる。何度食べても美味かった。