JAPAN SENSES日本のすがた・かたち

2018.05.25
ふたりだけの美術館

その美術館には
夫を喪ったひとりの女性と
長く夫婦を支えたひとりの女性がいた

夫は先生と呼ばれ
彼を慕う多くの友や弟子がいた
美術館は彼の念願であり
多くの支えを受け 建てられたものだった

ある日 突然 彼は天に召された

遺されたふたりの女性は
美術館を続けることを選んだ

美術館には 先生を知る人がときおり訪れた
先生を知らない人も 訪れることがあった
交わす言葉で 過ぎ去った日々をなぞりながら
ふたりは 人々の中で まだ
先生が生き続けている
そんな気がしていた


池に浮かぶ桜

石畳に舞い落ちる楓

庭を掃きながら ふと 空を見上げて



時が 止まっているような

時が 止まってくれないような




その美術館には
今日も ふたりだけがいて

静かに 静かに 時を紡いでいる