大分駅から車で1時間弱、内陸の竹田という地域には「日本一の炭酸泉」と評される長湯温泉がある。
温泉1ℓ中に1,000mg以上の炭酸ガスが溶け込んでいるという特徴があり、湯船に浸かると身体中を銀色の泡が包み込み、シュワシュワとした心地よい刺激が広がるのだ。
これが大変に良いお湯で、医療機関ではお手上げだった身体の不調がかなり和らいだ経験がある。疲れが溜まったと思うと無性に浸かりたくなるお湯。
今回は長湯温泉の中でも有名な「大丸旅館」に宿をとってみた。足元湧出の掛け流し炭酸泉、藤森建築で知られる「ラムネ温泉館」を外湯に持つ。
小さな長湯温泉街をレンタカーでソロソロと抜けて、大丸旅館に到着する。
車が見えるなり中から仲居さんがワラワラと出てきて駐車場を案内してくれる。仲居さんは地元のばあちゃんたち。小さくて、ニコニコしてて、賑やかで、なんかかわいらしかく懐かしかった。
海のとなりの漁村に生きる人、山に囲まれた農村に暮らす人。それぞれのぬくもりがあり、厳しさもある。
この人なつこく柔らかな感じは、いかにも農村を訪れたというやさしい気持ちになる。
大丸旅館の内湯は「テイの湯」。
炭酸泉とはいえ、ラムネ温泉館の透明な湯とは異なる黄土色のにごり湯。炭酸は高温になると抜けてしまうので、こういう違いが出るのだろう。
ふんだんな木張りが嬉しい内湯と芹川のせせらぎを聞きながら浸かる露天風呂(川向こうの道路から丸見え)。
あと10日くらい早かったらホタルも観れたという。里ののんびりした風情を楽しめるいいお湯だった。
また、この湯には面白い言い伝えがある。
昭和中ごろ、三代目女将ティの夢に現れた白髪の老人。隣の畑を掘りなさいとのお告げに従い、息子が掘ったところ高熱泉の温泉が湧き出たとのこと。
日本各地の名湯・霊泉とされる温泉には、何かしらこうした霊験のエピソードがあるものだ。
はるか昔から、温泉は人知を超えたものであることを窺い知ることができる。そして医療がこれだけ発達した現代でも、温泉には何か不思議な頼りたくなる力が秘められている。
長湯温泉の湯あがり、17時過ぎからヒグラシが鳴き始めた。
少しずつ大きくなって、いつの間にか大合唱になって、そして徐々に遠ざかっていく…。
最後の一匹が鳴き終えて、気がつけばもうすぐ夜がやってくる。
深い感動があったほんの數十分のできごと。