FOOD FOR CREATIVE頭を遊ばせる時間

2018.10.21
食材探訪記 東日本編(随時更新) ​

☆道南の「銀杏草(ぎんなんそう)」
ミミノリとも言い、八雲の銀婚湯で初めて出会う。キクラゲとノリを足して2で割ったような面白い食感で、味噌汁に入れるとツルツル・コリコリ・トロトロ感がなんとも言えないうまさになる。早春2〜3月ごろが旬で、生の銀杏草が手に入るのはこの時期だけ。青森県・陸奥湊の市場でも同時期に生の近縁種が売られているのを見かけた。それ以外の季節でも乾燥したものが手に入り、保存も効くのでわが家では重宝している。

●山形の「あけがらし」
遠藤ケイさんに教えてもらった幻の調味料。表現が難しくて、もろみとか、塩辛くない醤油の実みたいな感じ。それ自体が強い味わいを持っているわけではないのだけど、豆腐に載せたり、納豆に混ぜて食べる(これが一番のお気に入り)と素晴らしい風味が加わる。山形にある山一醤油さんが先祖代々伝わる洞穴の中でしか発酵しないという、なんとも心を鷲掴みにされる物語付き。何度かメディアに出ていて人気が沸騰しており常に入手困難だが、タイミングよくホームページを訪問すれば通販で購入できる。

●石巻の「牡蠣の潮煮」「ほやの潮煮」
三陸石巻産の牡蠣やほやを水分を加えずに圧力を加えて煮込み、そのスープとともに真空パックしたもの。身はもちろんスープの方に素晴らしいうま味が出ていて、いろんな料理への応用を考えるのが楽しい。何と言ってもパスタ(ペペロンチーノ)、炊き込みご飯に最高でした。いしのまき元気いちばで大量購入したけど、通販でも手に入るみたいなので便利。農林水産大臣賞も受賞。

☆新潟の「ルレクチェ」
新潟県では毎年11月くらいになると幻の洋梨・ルレクチェが店頭に並ぶようになる。フランス発祥のセイヨウナシの一種で、新潟県の下越地方が日本での栽培発祥の地。もともと洋梨は大好物だったのだが、長岡在住のころに初めて食した際、ルレクチェの濃厚な香りと甘さ、ざくっ、とろっとした食感にはハートを撃ち抜かれた。ほんの一時期しか出回らない上に追熟がなかなか難しいので、最高の状態で食べられる時の感激といったらありません。季節になると長岡の知人に送ってもらったり、あちらに用があるときにはまとめて購入してきたりします。東京でも時々出回っているようなので、見かけたらぜひ試してもらいたい。

●新潟の「もってのほか」
これは新潟というよりも東北全域で食べられていると思う。菊の花弁で、黄色や紫のものがある。薄味のおひたしにして香りを楽しむのがお気に入り。料理の仕上げに散らすと華やかな装いに。いつも購入するのは越後湯沢駅・がんぎどおり中央市場か、長岡の五十市など。

●新潟の「塩くじら」
鯨の皮付きの脂身の塩漬け。新潟では、夏になると塩くじらを使った郷土料理「くじら汁」をいただくのが昔ながらの風習だ。湯通しして脂を適度に抜いた塩くじらと野菜を一緒に味噌汁にする。特にナス・ミョウガと相性が良い。くじらの脂の独特の風味は地元の人でも好みの分かれるところだが、個人的には大好物で時々無性に食べたくなる。この他にも料理店では「くじらの味噌漬け」をグランドメニューに加えているところが多い。こちらも新潟の日本酒と合わせて止まらなくなる最高の酒の肴だ。

☆湯沢の「かやの実」
漢方としても利用されているかやの木の実。購入した場所は越後湯沢駅・がんぎどおり中央市場、2017年の秋。実を軽く炒ってみると、バニラにも近い何とも気品ある香りが漂う。食べてみると香ばしく上品な甘さが口いっぱいに広がる。こんなに美味い木の実は食べたことがなかった。殻が堅く、しかも実の方には苦味のある薄皮が付いていて、これもカリカリ剥がさないと美味さが半減すると言う厄介さ。しかし手間の分のリターンはある。これこそ幻の一品で以降まともに入手できていないのだが、記録として残しておきたい。ちなみに漢方用のものが通販で購入できたが、味としてはだいぶ届かず。

●新潟の「オニグルミ」
サワグルミ、ヒメグルミ、カシグルミなどたくさんの種類があるが、味の面で抜けているのはやはりオニグルミだと思う。ただし殻がとにかく堅く、最も食べられる状態にするのが大変。実は中で入り組んでいるのでほじくり出すのも一苦労なのだ。バラバラになった実は取っておいて、ローストしたラム肉にハチミツと合わせて載せるなどして活用。ちなみにクルミの値段は剥きやすさの順で付いているようで、オニグルミが1番安いことが多い。

☆長岡・喜京屋の「辣油」
長岡で創業120年、珠玉の四川料理店「喜京屋」。陳健一氏と親交が深く、現在の5代目も氏のもとで修行されてきたようだ。中国料理の全国大会(2018)で、周りが都内の有名ホテルのシェフばかりの中、前菜部門金賞(厚生労働大臣賞)を受賞。
山椒をガツンと効かせたスパイシーな麻婆が超絶品だが、何を食べても高水準に美味しく、東京で中華料理屋に行く気をすっかり失わせる。その味を支える秘密は色々あると思うが、特に印象的だと思う調味料が独特の風味を持った辣油。店頭のレジ横で瓶詰めにして販売してくれているので、ちょくちょく購入して冷蔵庫に常備。自宅で作るどんな中華料理もワンランク上の味になるので重宝している。

●茨城の「ものすごい鯖」
すっかり有名になってしまった「ものすごい鯖」。創業70年、老舗の干物店「越田商店」が46年間熟成させてきたつけ汁(少しくさやに似ている手法)による独特の風味が抜群だ。普通の鯖干したと比べると、うま味・甘味・渋み・酸味などいろんな味が複雑に絡み合っているのがわかる。薄味なのに強い印象がある個性的な味。数年前まではオーダーしたら割とすぐに入手できたのだが、現在は都内の飲食店を中心に注文が殺到。もはや通販では手に入らないと思われる。ちなみにアマゾンでは同店の「鯖の文化干し」と言う商品が販売されており、こちらも1ヶ月待ちくらいの状態ではあるが入手できる。食べてみたところ、味は同じような、少しだけ違うような…?

☆栃木・フジグリーンの「メグスリノキのお茶」
初めて飲んだのは湯沢の目の湯治宿・貝掛温泉。煎じて飲むと目が良くなる、という謂れのあるメグスリノキのお茶。ほろ苦い芳香がいつの間にかクセになり、いつしか製造元にまで取り寄せるようになった。細かく粉砕したタイプのものと、木片を粗く砕いたタイプのものがある。愛飲しているのは後者。渋み・苦味が抑えられ、クリアですっきりとした味に仕上がる。夏はキーンと冷やして、冬は熱いまま飲む。マニアックな味だと思うが、今や日常に欠かせない。

●千葉・キレドの「落花生」
千葉の農家さん・キレドからは毎月野菜を届けてもらっている。ここの野菜がとにかく美味しくて、百貨店の野菜では到底敵わない。この野菜はこんなに美味しかったのか!こういう食べ方もあったのか!と気づかされることも多くて、農家としての才能の高さ、クリエイターとしての優れた提案力をひしひしと感じています。
千葉県名産の落花生も、キレドのものは一味違う。塩茹でして、冷ましてからいただく。小指の先ほどの小さなものは殻ごと食べたり、育ちきる前の中くらいのサイズのものは殻の内側にあるゼリー状の部分が美味しい。成熟しきった実は大粒で香り高い。同じ落花生でもここまでの味の差が出ることに驚き。

☆千葉・キレドの「ビーツ」
ビーツがそこら中で売っているようになった。近所の三越ではいつでも棚に並んでいるし、地方の道の駅でもよく見かける。「食べる血液」みたいな売り文句で、美容にも役立つとても優れた栄養価なのだとか。ボルシチに使われ得ることで有名な食材だが、空前のボルシチブームが来ているとは聞いていないので、一般的にはジュースになることが多い気がする。わが家ではオーブンで焼いた後にサイコロ状に切ったビーツをクリームチーズと合わせていただいている。
キレドのビーツは、なんとも甘い香りと味の濃さが市販されているものと比べ物にならない。オーブンで焼いている最中の甘く香ばしい芳香はなんとも魅惑的。安いビーツは味が薄く、香りもない。同じ野菜でここまで味が違うのか…と驚かされた逸品。

●千葉・キレドの「スイートハラペーニョ」
色が濃く密度の高い小型のピーマン、といった外見。鼻を近づけてみると、ハラペーニョの一種なので唐辛子っぽい香りが漂ってくる。ただしこのハラペーニョ、名前の通り全く辛くない。香りは唐辛子なので体の方が勝手に反応して身構えてしまうが、味がすごく濃いピーマンといったところ。ピーマンのように使ってどんな料理にも美味しいと思うが、1番だと思っているのはやまと豚のベーコンと一緒に炒めたもの。ザクザクとした食感と濃い緑の味わいがなんとも言えぬ充実感。

●恵比寿・魚キヨの「上まぐろ」
重要なプレゼンを終えた日とか、朝から晩まで打ち合わせ続きだった日とか、海外から帰って来た日には無性にマグロを食べたくなる。マグロは昔ながらごちそうのアイコンだ。そんな日には絶対ここ!と決めているのが恵比寿駅前・魚キヨさんの「上マグロ」。中トロ混じりになったメバチマグロが惜しみないサイズの大ぶりに切ってある。醤油を浸してかぶりつくと、なんとも言えない幸福感が口いっぱいに広がる。マグロを食べるときだけワサビを醤油に溶かしたくなるのが自分でも不思議。築地文化の影響ですね。

☆八丈島・藍ヶ江水産の「くさやチーズ」
初めての出会いは10年くらい前になると思うが、今や冷蔵庫に常備するおつまみになっている。くさやとチーズ、お互いに発酵食品ではあるのでもともと相性はいいのかもしれないが、当時はあまりの美味しさにびっくりした。田崎真也さんが八丈島を訪れた際にくさや製造者さんに提案して誕生したのだとか。
八丈島ではあちこち売られているほか、通販や竹芝の東京愛らんどで購入できる。…のだが、おそらくお土産用に売られているものは強目に火を通してある。それでも十分美味いのだが、以前はもっとフレッシュ感のある状態だった。とはいえ、現在でも島内の飲食店では当時同様にフレッシュな状態のものを食べることができるので、行く機会があればぜひ試してみてほしい逸品。確実に出てくるのは「梁山泊」。

●八丈島の「焼きくさや」
くさやにはムロアジとトビウオの二種類があって、僕はトビウオが好き。できたてのトビウオくさやを買って自宅でじっくり焼いてかじりたいところなのだが、マンションから追い出されそうなのでこれは叶わぬ夢。そんな時に重宝するのが焼きくさやをほぐして瓶詰めにしたもの。これは比較的都心でも手に入りやすく、新宿の伊勢丹でも販売している。
同じく伊豆諸島特産の明日葉をさっと茹で、焼きくさやとマヨネーズで和えて食べるのがオススメ。くさやの個性的すぎるうま味と明日葉のクセのある青味がマヨネーズによって調和して、不思議で美味しいハーモニーを奏でるのだ。

☆八丈島の「麦冠情け嶋」
わが家に欠かすことができない麦焼酎である。もともと八丈島には黒潮文化の影響を受けた芋栽培と焼酎づくりの文化がある。そこから焼酎蔵がいくつも生まれ、今や実に様々な焼酎ブランドがひしめいている。
そんな中でも群を抜いてお気に入りなのが「麦冠情け嶋」だ。情け嶋には普通の麦焼酎ブランドもあるのだが、こちらの方が麦の香ばしい香りが段違いに良い。どうやら人気も高いらしく、常に品薄状態。なにせ島内でもお土産として販売しているのを見かけたことがない。その代わり都心の力のある酒屋には置いてあったりするので皮肉なものだ。
ちなみに島内でも梁山泊などの料理店では飲むことができる。東京では恵比寿の鶏敏でこれの水割りを何杯飲んだかもはやわからない。

☆埼玉・フリーデンの「やまと豚のベーコン」
学生時代にアルバイトしていた店で扱っていたベーコン。いまだにこれより美味しいベーコンには出会っておらず、常に取り寄せして冷蔵庫の中に入っている。やまと豚自体の旨味・甘味が抜群だし、燻製の具合も素晴らしく香りゆたか。短冊にしてパスタ全般にはもちろん、細切りにして炒め物の隠し味っぽく使ったり、ポトフとかのスープものにもいい。野菜と一緒に炒めるだけでもごちそうになる。やまと豚は最近広尾の明治屋でも取り扱うようになった。それほど高価でもなく、じわじわ人気が広がっているようで嬉しい。

☆熱海・魚久の「カマスの干物」
実家がある熱海・伊豆山にとても有名な魚屋さんがある。あたりに別荘族が多く舌の肥えたお客さんも多いと思うのだが、駅から離れた立地ながら多くのファンを獲得していて、いつも大賑わい。魚は小田原の市場から毎朝仕入れており、鮮度はピカイチ。少し変わった魚が入荷することもあり、見ているだけでも楽しい。
さて、ここの干物が絶品なのである。熱海の駅前には数え切れないほど干物屋さんがひしめいているが、魚久が群を抜いて美味しい。中でもお気に入りは小田原名産のカマスの干物だ。カマスを焼けばご飯が一升食べれるほど美味しいという「カマスの焼き食い米一升」という諺の通りに、ふっくら旨味の詰まった味わいがクセになる。
その他にアジ、金目鯛、エボダイ、メヒカリなどの干物も揃っていて、どれも高水準。しかも安い。熱海へ行くことがあったらぜひ足を伸ばして、美味い干物のお土産をゲットしてほしい。

☆西伊豆・田子丸の「厚削り節」
松崎の桜田温泉に向かう途中で入手。西伊豆の鰹節製造の歴史は古く、平安宮跡から発掘された天平18年の木簡に西伊豆、田具の里から調(租税)として堅魚を奈良の都に納めたと言う記録も残っているそうだ。(田子丸HPより参照)
わが家では鰹節から出汁を引くが、厚削りのこれに変えてからうっとりするような香り高いうま味が出てくるようになった。シンプルな味噌汁がペロペロしたくなるようなご馳走になるという衝撃。
これを味わってしまうと、細削りのものには戻れない。というか、これより先に行こうとすると、やはり自分たちで削るしかないのだ。その後、同じく鰹節特産地である指宿・山川旅行の際に鰹節削り器と本枯れ節を買ってしまったのは必然の流れだろう。

☆飛騨の「龍の瞳・いのちの壱」
「森のくまさん」「ゆめぴりか」「新之助」などお米はいろいろ試してみたけど、1番は「龍の瞳」。何と言っても目を見張るような粒の大きさが特徴(コシヒカリの約1.5倍)。米自体の甘みにもキレがあり、独特の香ばしい香りと合まってとにかく個性が際立っている。素直に白米で食べてもいいし、5分磨き、7分磨きでいただくのも美味しい。
岐阜産、飛騨産などいくつかの産地があるが、1番人気はやっぱり飛騨産。今年も新米の季節が待ち遠しい。

●石川・七尾の「アカモク」
山形県では「銀葉藻(ギンバソウ)」、新潟県では「長藻(ナガモ)」。メカブに似たような感じで、刻むとかなり強い粘りが出てくる。さっとポン酢をかけ、ズルズルっと食べるとコリコリ、ネバネバと美味しい。そのまま味噌汁に入れて食べることもある。
このアカモクも人気沸騰中の食材である。何度かメディアからスーパーフードとして取り上げられ、その栄養価の高さに注目が集まっている。最近では売り場に出てもすぐに売り切れてしまうようだ。ネバネバに含まれるフコイダンという成分が、「免疫力の向上」「健胃作用」「抗アレルギー効果」「肝機能向上」に役立つとされている。海藻類の中では食物繊維も豊富。
石川県七尾市ではアカモクを返礼品にしているので、そちらを利用してみてもいいかもしれない。

銀婚湯の朝食で出会った銀杏草の味噌汁。

陸奥湊の市場でもアカハタという名前で銀杏草が売っていた。

あけがらし。山一醤油のサイトより。

牡蠣の潮煮と小豆島の手延べパスタのペペロンチーノ。

恵比寿駅前・魚キヨの上マグロ。

こちらは熱海・伊豆山の魚久。

魚久で売られていたカマス。

キレドの野菜、くさやチーズ、新漬けオリーブ、けい水産のトビウオ干物の盛り合わせ。