POWER OF SPRING温泉力をもらいに

2017.02.24
雪国の男の背中を見た「清津峡温泉 清津館」

世は秘湯ブームでしょうか。
最近は秘湯宿と言ってもなかなか予約が取れないものです。土日はもちろん、平日であっても時間にゆとりがあるシニアの利用が多いようで。
1〜2週間前にアプローチをするようだとなかなか希望通りにいきません。

今回お邪魔した「清津館」は、一週間ほど前に急遽決まったものでしたが、
諦め半分で電話すると空室があったことに驚きました。
http://www.kiyotsukan.com

新潟県民でないとあまり知らないように思いますが、信濃川の支流である清津川が形成した峡谷「清津峡」は日本三大渓谷のひとつとして数えられ、天然記念物にも指定されている国の名勝です。
これは、はるか古来に海底だった地盤が数千万年の時を経て地上に隆起し、あまりに壮大な独特の渓谷地形となったもの。
新潟県十日町市小出から湯沢町八木沢にかけての全長約12.5キロメートルにかけて、 川を挟んで切り立つ巨大な岩壁がV字型に切りたちます。

「清津館」は、その渓谷の入り口近くに佇む一軒宿です。
越後湯沢駅から路線バスで50分ほど…清津峡入り口というバス停で降りると、主人が迎えにきてくれました。簡単に挨拶を交わし、車はぐんぐん集落の奥に入っていきます。周辺にお店のようなものはほとんどないようです。
やがて清津峡温泉のささやかな温泉街に到着。車を降りると、女将の温かい笑顔が迎えてくれました。客室は15ほどのこじんまりとした旅館です。ロビーに置かれた、名もない雪国の民芸品が心を和ませてくれます。

チェックインと同時に貸切露天風呂の予約を。自家源泉の掛け流し露天が、宿の向かいの川べりに建てられています。予約表を見てみると、まだ誰も予約を入れていない様子。休憩も早々に浸かりに行くことに。
外に出ると雪が強く降りはじめて、三度笠を被っての雪見風呂となりました。目の前には雪が積もり水墨画のような色彩になった、圧倒的スケールの清津峡の風景が広がります。
湯船はふたつあって、片方は40℃くらい。37℃くらいの源泉を、厳冬期のため少し温めてくれています。
もう片方は源泉そのまま、35℃くらいでしょうか。最初はヒヤッとしますが、浸かっていると熱くもなく、冷たくもない、じっくり温泉成分を取り込むにはピッタリな不感温度というやつです。お湯のフレッシュさと何よりの絶景。とても素敵な露天風呂でした。

また、同じく源泉掛け流しの内湯も素晴らしいものがあります。硫黄の香りが心地よく、入湯量もなかなか豊富。なにより入浴中に他のお客さんと遭遇することがなく、常に貸切でした。こんなに素晴らしい泉質を独り占めできるなんて夢のようです。

夕食は、食堂にて。
豪華さはありませんが、山の奥では精一杯かつ十二分のもてなしに頭が下がります。特に印象的だった鯉の刺身は臭みが全くなく、舌の上でとろけるような絶品。川の魚は寒い季節にこそ美味です。嵐渓荘の鯉の洗いとはまた異なる旨さがあります。


二泊三日の滞在中、他には2組のお客さんを見かけただけ。どうりで風呂で会わないはずだ。
しかし、貴重な宿です。温泉も料理も環境も個人的には大満足。旅館から出ると清津峡以外行くところはないが…。都会の喧騒につかれ、人生の深呼吸でもしに訪れたいのはこんな場所ではないでしょうか。行き届いた設備はありませんが、そこにいる人間の魂がしっかりと通っている場所です。
滞在中、ご主人は館内の電球を交換したり、雪かきをしたり、寡黙にせっせと動いていました。
露天風呂まで行く長靴が足りないことに気づくと、奥の方から悪戦苦闘して引っ張り出してきてくれました。特に言葉は交わしませんでしたが…。
その時に、とことん口ベタな主人が一瞬見せた、ほんのわずかな表情のほころびが脳裏に焼き付いています。

モノや情報が少なくなれば、人のぬくもりが浮かび上がってくるのです。
秘湯は人なり。

温泉を守りながら生きる、寡黙な、しかし静かに熱をたぎらせる…
かっこいい雪国の男がいる場所でした。

バスはぐんぐん山奥へ。あっという間に白と黒だけの水墨画の世界に飛び込みます。人工物がありません。

清津峡の前にはほんの小さな温泉街が。清津館の向かいには日帰り温泉も営業していました。

清津館の正面から。立派な建屋ですが、見た目ほどには客室数はありません。

ロビーの風景。小学生が作った清津峡の模型が置いてありました。

囲炉裏ではいつでもコーヒーをいただけます。民芸品に心が和む。

こちらは正面にある野天。雪が舞う中での雪見風呂です。

風呂の向かいには清津峡のダイナミックな絶景が広がります。

とてつもないスケール感に圧倒されます。

ぬるめの浴槽。1時間くらい浸かっていたいところですが、貸切には制限時間がありますので。残念。

こちらは内湯。芳しい硫黄の香り。常に貸切状態で贅沢な時間でした。

源泉掛け流し。湯温49度は扱いやすそうだ。

手前が鯉の刺身。冬になると鯉に脂が乗る。とろけそうに美味だ。

朝になるともやが出現。朝日が反射して幻想的な風景が広がる。

一泊目をご一緒したご夫婦の旦那さん。秘湯巡りをされているそうで、幾つも同じお気に入りの宿があった。こういう旅先での情報交換が楽しい。

清津峡の見学はこの「清津峡渓谷トンネル」から。

トンネルの内部はこんな感じ。奥へ向かって歩いていく途中に、いろんな展示がされている。

横穴から清津峡の景色が垣間見える。

トンネルから頭を出すと、清津峡の柱状節理が目の前に!大迫力。

トンネル最奥部。清津峡渓谷はこの先もずっとずっと続く。一番奥まで行くと1泊以上歩きそうだ。