長崎県には「秘湯を守る会」の宿が2つある。
ひとつが島原半島・小浜温泉にある國崎、そしてもうひとつが壱岐にある湯ノ本温泉・平山旅館だ。登録されたのは最近で、何より離島にある秘湯宿は珍しい。
湯ノ本温泉は大変に由緒ある古湯で、その歴史は1500年を遡る。もともとは5世紀神功皇后が三韓出兵の折に発見したと言われている。その際に産まれた応神天皇の産湯にこの湯を使わせたということが伝説に残っていて、それが子宝の湯と言われる所以ともなっている。
お湯は黄土色で深く濁っていて、近くによると鉄の香りが漂う。成分のとても濃い湯で、溶存物質量は16,000mg/lを超える。ナトリウム-塩化物温泉ではあるものの、カルシウムイオン、硫酸イオン、炭酸水素イオンも豊富。長湯は禁物だが薬効豊かなのは間違いない。
男性用の大浴場は内湯に大きな浴槽がふたつ、屋外の露天風呂がある。それに対して女性の方は内湯がひとつと少し小さいらしい。
内湯は天井が高く開放的であり、しっかり清掃されていて好印象。浴槽には赤茶けた成分が析出していて、成分の濃厚さを雄弁に物語る。
屋外露天は箱庭のような温室のような明るい空間になっていて、植栽がふんだんに配置されていて不思議な空間。
源泉は60℃を超えていることもあり、お湯はどちらもやや熱めだが、内湯の方が少しだけぬるめに感じた。内湯で肩まで10分くらい浸かっていても不思議と湯あたりもなかった。身体の芯までポカポカになる、冬場に特に浸かりたくなる温泉かもしれない。
次に食事。とてもオリジナリティがあってよかった。
秘湯宿はともすると同じような構成・食材セレクトになりがちだけど、こちらは独自の工夫をふんだんに取り入れていたと思う。
この時期だけの幻の赤ウニ、お造りの盛り合わせは見た目も豪華である。時化が続いていたのでケンサキイカが活きでなくてごめんなさい、とのことだった。
特に印象的だったのはサワラの幽庵焼き。サワラは火を通すのが難しくて、ちょっとでもやりすぎるとキチキチとカタい食感になってしまうのだが、こんなにもフワッと仕上がっているのは初めてだったかもしれない。あと、サワラは尻尾に近い身の方が美味しいとされる珍しい魚。たしかに身質は尾の方がきめ細かく柔らか、明らかにうまかった。
ちなみに朝食では自家菜園の生野菜サラダがダイナミックな盛りで登場。ここに「ステビアの新芽」というのがひとつだけあって、砂糖の10倍の甘みを持っているとのこと。どんなもんかと食べてみたら、たしかにめちゃくちゃ甘い!砂糖の10倍というのも伊達ではない。そういえば昔「ポカリスエット ステビア」というのがあったっけ。
そして、平山旅館最大の目玉は「女将」である。
松岡修造が訪れた際に残した「女将は壱岐のパワースポット」が的確にその存在感の大きさを表している。食事処の床の間に置かれた極彩色のダルマみたいなキャラクター。オリジナルのメニューやお土産を開発したり、島のあちこちに女将の功績が残されていて、面白い。お客に壱岐の魅力を伝える、好きになってもらうのが楽しくて仕方ないという雰囲気。
大変なこともたくさんあるだろうけど、とても応援したい存在だ。