JAPAN SENSES日本のすがた・かたち

2019.08.16
ほんとうに欲しいもの、「1+1=1」。

実家のある熱海への帰省前、小田急ロマンスカーに乗って「箱根本箱」へ2泊の立ち寄り。
不思議とご縁ある元長岡マーノ・佐々木祐治シェフのプレートと、別案件でも大変お世話になっているブックディレクター・染谷拓郎さんの選書に出会える特別な場所です。
昨年オープン直後に伺ってから、同じ時期に2度目の訪問。

6月マンモス展開幕までの日々薄氷を踏むような緊張感から解放された途端、それまでなんとか待って頂いていた案件が一気に動き出しました。
さらに、もはやそういうものだと諦念に近いものがありますが、こういうタイミングに限って絶対にやりたいテーマ、新しく挑戦したい案件が次々と飛び込んできます。
この先に待っている難題難問を思うと頭を抱え込みたくなりますが、幸せでありがたいことだと思う。これからを楽しみきるためにも休むときはしっかり休まなければなりません。
箱根本箱で過ごした時間は、久々に睡眠と読書、温泉、食事をのんびり堪能できる時間になりました。

本棚を何度も行ったり来たりしているうちに、最初は気に留まらなかった本が浮かび上がってくることがしばしばあります。
ブックホテルという空間のなせる魔法でしょうか。本との出会い方にもいろんなかたちがあるようです。
さて、今回の滞在中に出会った本のひとつに、建築家・吉阪隆正氏(故人)の言葉をまとめた『好きなことはやらずにはいられない 〜ことばが姿へ〜』という一冊があり、その中の一節が印象的でした。

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「1+1=1」

二つのみちはまったく反対側を歩いている。
一方はかたちが先で中身はこれにおし込まれる。
他方は中身がさきでかたちはこれを包むだけだ。
その間に歩みよりはなにもない。
この不連続な二つのみち。
これを一つにまとめる作業こそ
設計というものではないだろうか。

前者は人間の感性に訴える。後者はひとびとの理性に訴える。義理と人情ではないが、いわば女性と男性との和合が人生の理想であるように、感性と理性の融合まで二人が努力しあうことが必要なのだろう。それには相当な時間がかかる。いろいろの試みをしてぜひを判定してゆかねばならぬ。結果は至極単純である、二つが一つになってしまったのだから。
二を一にする生みの苦しみ。
これを多くのひとびとはさとらない。それはかくれているから。
1+1=1 この方程式をとくことが設計なのだ。
ときにはΣ1=1となるのだ。

〈今日の建築〉1960年

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1+1を10よりも100よりも大きくしよう、という時代の空気を色濃く感じるのは僕だけではないでしょう。
効率やスピード、影響の広さや大きさみたいなことに気がつけば思考を持っていかれています。
でも、「なんでそうするんだっけ?」「なんのために頑張ってるんだっけ?」みたいなことをたどっていったとき、本当に欲しいものは、この「1+1=1」で綴られた中に示唆されている気がします。

吉阪隆正氏が提唱した「不連続統一体」というコンセプト、とても興味深いものでした。もう少し掘っていってみようと思います。

台風が近づきつつある真夏の箱根、蝉の鳴き声が響きわたる。箱根湯本駅でロマンスカーを降り、そこから路線バスで40分。大きいスーツケースを引きずって、箱根本箱に到着です。

1年前から本はあれこれ入れ替わっている様子。もちろん変わってないものもある。前回来た時に買った本も再入荷されていたりした。

自遊人らしいオーガニックな雰囲気の漂う1階ツインの部屋。テラスにはシャワーブースと露天風呂。窓が大きくて気持ちいいなあ。

『好きなことはやらずにはいられない 吉阪隆正の言葉 〜ことばが姿へ〜』、アルキテクト編。最初はタイトルで手に取ったかな。

「1+1=1」のページ。吉阪隆正氏は「不連続統一体」という概念を打ち出した。「個の時代」という言葉だけに振り回されていると忘れてしまいそうな本質が隠れていると思う。

地下一階にある大浴場。左右で泉質・湯温が異なる。日によってお湯の状態が大きく変化する印象で、手前側の湯船で38℃くらいの湯温で入れた時が最高だった。

露天もあります。ヒグラシの鳴き声を聞きながら浸かるぬる湯はなんとも長閑で贅沢。

物販コーナー。ディスプレイが少し変化したと思う。魚沼の商品も少し置いていたり。

1日目のメニュー表。佐々木シェフの料理を堪能できる幸せ。

アミューズ。手づかみでどうぞ。

くぬぎマスのタルタル。器とも合間って涼やか。

1年前にはなかったオーガニック野菜のプレート。ヨーグルトを作る時に出るホエーをベースにしたあたたかいスープをかけていただく。とても美味。

天城軍鶏のリゾット。ホロホロになりつつもグッと強い旨味が閉じ込められた軍鶏。その出汁をたっぷり吸ったコメ。昨年も美味しかった、定番のひとつ、かな。

伊豆半島といえば、金目鯛のアクアパッツァ。

ワインは青森・サスィーノのもの。かつてサスィーノで修行した佐々木シェフ曰く、当時と比べても相当美味しくなっているとのこと。進化し続けているのは本当にすごい。

ここからは二日目の夜。カツオのタタキ。焼津の有名な「サスエ前田魚店」さんより仕入れ。まったく臭みがなく、モチモチ感が素晴らしい。

季節の桃とレモンのパスタ。山椒もわずかにピリッと感じられる。うっとり。

富士の裾野ポークのロースト。佐々木さんは本当に肉の扱いが上手で魔法のようだ。

夕食後は宿泊者みんなが読書タイム。本棚の中にあるおこもりスペースに入ったり。酔っ払っているからこそ目に留められる本もある?

朝食のダイニング。7:30からと早いのが嬉しい。

1日目の朝食。自家製ロースハム、キッシュがぜいたく。スープもパンも美味しい。
ちなみに2日目はラタトゥイユを添えたリゾットで、こちらも美味しかったです。

今回はランチもお願いしてみた。スパイスが効いた、清涼感のあるチキンカレー。3杯くらい食べれた気がするけど我慢!