海の京都、伊根の舟屋。
そこにあるのは知っているけど、なかなか行けない場所でもある。
舟屋は伊根湾に面して立ち並ぶ特徴的な木造建築群のことで、1階部分が船着場、2階部分が舟道具の倉庫になっている。これがなんとも言えない郷愁感というか、風情あふれる風景なのだ。
この場所にたどり着くまでの道も細く、宿泊施設も数えるほどしかないため、あまりたくさんの人が訪れることができる場所ではない。舟屋に宿泊できるようになったのもここ数年のこと、とも聞いた。普段僕たちが住んでいる都市とは明らかに違う時間の流れ方をしている場所だ。
お世話になったのは「舟屋まるいち」。
まだリノベーションしたばかりで、モダンで清潔感あふれる内装。
2階の窓からは伊根湾を眺められる。ちょうど夕方、夕陽を浴びて釣り船が戻ってきた。
釣り客たちがすべての魚を持ち帰らないことを知っているカモメたちは大群になって船を追いかけている。
カモメたちもまた舟屋の住人。
深夜、船着場に降りてみた。
深い深い森の中にいるようだった。ぴーーーーーーーーんと、静まり返っている。
湾は不気味なくらい穏やかで波音がしないし、車が走る公道もずっと遠くにしかない。
上を見上げると、息を呑むような満天の星空があった。