能登町まで南に降り、どうしても行ってみたかった「民宿ふらっと」へ。
能登町は輪島や珠洲岬よりも不思議と雪深く、七尾湾はとても穏やかで鏡のように輝いている。海岸線を走る路線バスは波打ち際が近くて、美しい風景をゆっくりと堪能できた。
ふらっとは、能登育ちの船下智香子さんと、旦那さんでシェフ、オーストラリア出身のベンさんが営む一日四組だけの宿。宿の名はベンさんの本名「ベンジャミン・フラット」から。
ベンさんが腕をふるう魚介メインのコースは、能登の発酵と保存の技術を活かして食材の素晴らしさをシンプルに引き出したもの。その中にベンさんの個性もあって、お皿が出てくるたびの発見がとても楽しい。
自家製いしりと大根のスープに始まり、ヒラメのカルパッチョ、サザエのオイル煮、自家製パンと続いていく。
超特大・極厚のブランド椎茸「のと115」のステーキは出汁をたっぷり含んでいて、削ったパルミジャーノを絡めながら頂く。
その後白子のフリットを挟んで、香箱ガニを丸ごと使った手打ちパスタ。ほぐした蟹身と内子・外子を麺と混ぜながら食べる贅沢なスタイル。
ここのところたくさん水揚げされるというスズキのグリルは衝撃的なフワフワ具合。酒粕のニュアンスもおもしろい。
翌朝には3年ものの自家製こんかいわし。これが上等なふなずしを初めて食べた時を思い出す衝撃的な味わい深さ。想像したような臭みはほとんどなく、チーズのようなまろやかなうまみが舌の上でとろけていく。箸の先でちょっとだけすくってあたたかいご飯に乗せ、口に運ぶ。止まらない、止まらない。
料理を運びながら能登のいろんな話題を教えてくれる智香子さんのトークも、民宿的な距離の近さで心があたたかくなる。
ひと通り料理が出終わるとベンさんが各テーブルを回って挨拶に来てくれるのもすてきだ。
ここにしかないものだらけ。
旅をもっと楽しむにはとてもいい宿。