FURUSATO JOURNEY故郷を探して

2018.12.31
能登の食文化を受け継ぐ人びと「民宿ふらっと」

能登町まで南に降り、どうしても行ってみたかった「民宿ふらっと」へ。
能登町は輪島や珠洲岬よりも不思議と雪深く、七尾湾はとても穏やかで鏡のように輝いている。海岸線を走る路線バスは波打ち際が近くて、美しい風景をゆっくりと堪能できた。

ふらっとは、能登育ちの船下智香子さんと、旦那さんでシェフ、オーストラリア出身のベンさんが営む一日四組だけの宿。宿の名はベンさんの本名「ベンジャミン・フラット」から。

ベンさんが腕をふるう魚介メインのコースは、能登の発酵と保存の技術を活かして食材の素晴らしさをシンプルに引き出したもの。その中にベンさんの個性もあって、お皿が出てくるたびの発見がとても楽しい。
自家製いしりと大根のスープに始まり、ヒラメのカルパッチョ、サザエのオイル煮、自家製パンと続いていく。
超特大・極厚のブランド椎茸「のと115」のステーキは出汁をたっぷり含んでいて、削ったパルミジャーノを絡めながら頂く。
その後白子のフリットを挟んで、香箱ガニを丸ごと使った手打ちパスタ。ほぐした蟹身と内子・外子を麺と混ぜながら食べる贅沢なスタイル。
ここのところたくさん水揚げされるというスズキのグリルは衝撃的なフワフワ具合。酒粕のニュアンスもおもしろい。

翌朝には3年ものの自家製こんかいわし。これが上等なふなずしを初めて食べた時を思い出す衝撃的な味わい深さ。想像したような臭みはほとんどなく、チーズのようなまろやかなうまみが舌の上でとろけていく。箸の先でちょっとだけすくってあたたかいご飯に乗せ、口に運ぶ。止まらない、止まらない。

料理を運びながら能登のいろんな話題を教えてくれる智香子さんのトークも、民宿的な距離の近さで心があたたかくなる。
ひと通り料理が出終わるとベンさんが各テーブルを回って挨拶に来てくれるのもすてきだ。

ここにしかないものだらけ。
旅をもっと楽しむにはとてもいい宿。

路線バス「矢波弁天」停留所まで迎えに来てくださる。3分くらいでふらっとに到着。

正月飾りの立派な門。民宿という言葉から想像する外も中も雰囲気ではないかもしれない。

船下さんご一家。すてきな写真。

部屋も広い。10帖にサンルーム、テラス、浴室などがついている。天井も高くて広々居心地いい。

浴室。実は宿には露天風呂があるのだが、冬季は閉鎖。寒すぎて入れる人がどのくらいいるかを考えると妥当だと思う。僕は多分入るけど。

18:30から四組いっせいに夕食が始まる。最初に自家製いしりを使ったスープが出て(これもすごくうまかった)、次のヒラメのカルパッチョ。紫蘇の香りが加わっている。もっちり、脂の乗った旬のヒラメ。

とんでもないしいたけ、「のと115」。このうず高い山の中にぎっしりと肉が詰まっている。食べ応え、旨味ともに抜群。

大晦日で漁期が終わる香箱ガニを丸ごと一杯使った手打ちパスタ。外子・内子をほぐしてからめながら食べる。ごく軽いクリーム系。

スズキのグリル。肉質もむっちりしてるし、この季節はてっきりヒラスズキだと思ったけど、マルスズキらしい。鉄板で焼き付けた後、出汁を加えて蒸して、その後酒粕を乗せてオーブンで少し。何と言ってもフワフワ感に驚愕。火入れをミスってキチキチになったスズキやブリはちょっと悲しい。

食後に挨拶に来てくださったベンさん。日本語も堪能で、食材のこと、調理方法のこと色々教えてもらった。

鯖を干してある。奥に見える赤いのは唐辛子。

ダイニングの様子。この日も雪が降っていて、奥に望む七尾湾が言葉も出ないくらいに美しい。

度肝を抜かれた3年ものの自家製こんかさば。箸で押したらほぐれるほどに柔くなっている。塩分は強いので、少しずつ箸の先にとりながらいただく。鼻から抜ける香りがクセになる。が、多少人は選ぶかもしれない。

輪島塗に注がれたたっぷりのお味噌汁が冷えた体にしみわたる。昨晩のスズキのアラがいい出汁に。

そうか、オーストラリアだからディジュリドゥがあるのか。やっぱり吹けるのだろうか。

とてもいい宿でした。冬にまた来たいし、夏にも来たい。