POWER OF SPRING温泉力をもらいに

2017.06.11
カジカガエルの幻想的な鳴き声響く「黒川温泉」 

熊本から高速バスに乗り、阿蘇を越えてさらに1時間程度大分方面へ。
別荘地を抜けてしばらく行くと、深山の中に突如として大勢の人で賑わう温泉街が目の前に現れる。
知る人ぞ知る「黒川温泉」がここである。
豊かな自然に包まれながら、29軒の温泉宿が寄り添うように温泉街を形成している。

ここ黒川温泉はすべての温泉宿で1つの旅館という「黒川温泉一旅館」を掲げている。
現在からは想像もできないことだが、歴史ある湯治場である黒川温泉もまた、数十年前には閑散としてしまった時期があった。
このまま時代に取り残され、寂れて行くのを待つだけなのか…そんな時、宿の主人たちが奮起したのである。
豊かな温泉の恵みを分かち合いながら手を取り合うように暮らし、旅人をもてなす。
道は「廊下」、樹木草花は「庭」、旅館は「客室」。
29軒の温泉宿が一体となって、地域のリブランディングと一体整備に取り組んだ。
それから数十年がたった今では、全国から「いつかは訪れたい」と羨望を集める温泉地に一変した。
中心街を歩いてみれば、シニアのカップル、家族連れが多く、学生グループ、アジア系のインバウンドと幅広い人々の姿。

その一方で、10分ほど歩けばいかにものどかな農村風景が広がる。
水を引いたばかりの田んぼから聞こえるカエルの多重奏。
イトトンボが気持ちよさそうにフワフワ飛び回る。
正午の合図にニワトリがひと鳴きすると、農家のおばさんが昼食の準備をはじめる。
そのまま阿蘇に近づけば、風景は一変して壮大な高原の景色が眼前にあらわれた。
歴史ある温泉街の賑わいと、それを取り囲むのどかな農村の風景、壮大な高原の風景が一度に味わえるちょっと他にはない温泉地だと思う。


今回宿を取ったのは、先代が黒川温泉の再活性化の旗振り役となった「新明館」である。
黒川温泉の中でも最も有名なアイコンでもあるこの宿は、玄関につながる橋の風景を記念にと多くの観光客がシャッターを押す。
温泉街の名物に…との想いから先代が手掘りしたという洞窟風呂、そして広々とした露天がこの宿の名物だ。
立ち寄り湯が盛んな黒川温泉において、誰もが必ず訪れる大人気な湯船である。

かたや、内風呂は宿泊者のみが利用できるが、こちらが素晴らしい。
外の洞窟風呂と露天風呂が有名すぎるだけに、内湯を利用する宿泊客自体が少ないのだ。
よって、常にフレッシュな状態のお湯に浸かることができる。やや熱めではあるが、肌に吸い付いてくるような感触は新鮮なお湯ならでは。
ヨダレが出そうな思いをしながら、何度も内湯に出入りしていた。

さらにこの後に宿を取ったのが温泉街のいちばん外れにある「旅館 山河」。
黒川温泉の中ではゆったりとした空間のとりかたで、深山の中にひとつの集落をつくったかのような世界観。
苔むし鄙びた屋根の連なりが、秘湯の風情をかきたてる。
こちらも広々とした露天が名物の宿で、泉質は黒川温泉の中心部とはやや異なり薄く白濁したようなお湯。(ツウの間では貝汁系と言うらしい)
泉温もちょうどよく、自然を感じながら長湯したくなる魅力的な湯船だった。

夕刻に近づいたころ、湯上りの身体を風にさらしていると、
カジカガエルの美しい鳴き声がそこらじゅうに響きはじめた。
森を包み込む妖しく幻想的な響き。いつまでも耳を傾けていたくなる。
昔も今もこの感動は変わらない、と思う。




…と、すっかり浸っていたところに、僕のお腹の虫が素頓狂な鳴き声をあげた。

ああ、そろそろ仲居さんが夕飯の合図に来るかしら。

熊本から高速バスで阿蘇を経由して黒川温泉へ。寝そべった仏様に見立て信仰を集めた阿蘇五岳のスケール感は見惚れるものがある。ヘソに当たる新岳からは今も噴煙が上がっている。

黒川温泉に近づくと緑が深くなってくる。清流が何本も流れている。

黒川温泉再活性化のキーマンとなったご主人の宿「新明館」。

崖を彩る花々が美しい。黒川温泉の中でも一番フォトジェニックな宿かもしれない。

川を渡ってのアプローチの面白さからか、もはや建物自体が観光スポットになっていて、記念写真を撮る人多数。建物の中から見ると被写体になっているようで不思議な気分。

露天(岩戸風呂)に向かうアプローチ。苔むした屋根が秘湯の世界観。

かつて使われていた井戸?

岩戸風呂。奥の方の岩べりから暑い湯が溢れ出している。ちょっと熱めの湯で、長湯はできなかった。

こちらは対岸から露天を眺めた風景。割と視界が抜けている。こちらに向いて記念写真を撮っていた方々、真っ裸の僕が映っていたらゴメンナサイ。

新生黒川温泉のシンボルでもある洞窟風呂。「温泉街に目玉を」との思いで新明館の先代ご主人が手掘りされたとのこと。

湯面は腰ほどの高さ。あちこちにちょっとたまれる窪みがあり、お気に入りの場所に落ち着く。

こちらがもっとも感動した内湯。お湯の投入量に対して利用者が少なすぎる。いつでもフレッシュで、身を湯に浸す喜びを実感できる湯船。

貸切露天。宿の裏手の高台にある開放的な湯船。風が心地よく抜けていき、自然をゆったりと感じることができる。

食事は囲炉裏にて。地のヤマメがじっくりと焼きあがっていくのを眺めながら、ゆるゆると進んでいく。

黒川で豊富に取れる山菜を、シンプルな炊き合わせで。こういうのを食べに来ているようなもの。力強い美味しさ。

新明館は他にも二軒の宿をやっている。「花みず木」と、「深山山荘」温泉街より山側にあるので、ハイキングついでに深山山荘の立ち寄りを伺った。

こちら、立ち寄り湯なのにお湯がフレッシュ。みんな部屋付きの方に入るからか。しかも浴槽が木張りで肌触りが素晴らしい。また入りたいと思わせる湯船。

昼食は「あか牛バーガー」。パンチはあるけどシンプルな味付け。滅多にハンバーガー食べないからだと思うが、素晴らしく美味しく感じた。

ここから「旅館 山河」。温泉街からは歩いて25分くらい。敷地も明らかに広く、余裕のある空間づくりが印象的だった。

こじんまりとした棟がポツポツと佇むランドスケープ。歩くのが楽しくなる。

目の前に広がる新緑の景色を室内に取り込む。緑がすぐそこにある。

さっそく名物の露天へ向かう。

混浴とはあるが、女性専用の露天も他にあるし、実質利用するのは男性のみ。とはいえ宿の方のお話では、海外から来た女性などが入浴することもしばしばあるらしい。

やや薄にごりのお湯。湯船の広さの割には利用者は控えめ。贅沢な露天だと思った。

こちらは貸切で入れる半露天。川べりの高台にあり、川のせせらぎを聴きながら、目の前には緑がいっぱい。

こちらも貸切「石の湯」。こじんまりとしているがお湯はぬるめで長湯したくなる。

夕餉の前菜。ホタルイカの沖漬けを石焼で食べる。部屋食だったので、部屋中がこれの香りになった。

盛り付けが上品でチャーミング。

高原を散歩する。ぐるぐる系植物が辺り一面を埋め尽くす。

わらびの芽生え

わらび採りに来ていた地元のおばさま。広大な緑の風景の中でちょこちょこと動き回るピンク色のウィンドブレーカー。高原を飛び回る妖精のようである。

昼食に立ち寄った食事処。高菜チャーハンは高菜があと3倍くらい入ってるとさらにうまかったと思う。だご汁はホッとする味。

枯れた木々の枝先に、丸まった枝の塊がたくさんあった。なんだろうこれ。鳥が巣を作ろうとした跡にも見えるけど、綺麗に円形なので違う気がする。