POWER OF SPRING温泉力をもらいに

2016.10.24
​ 奥志摩温泉合歓の郷 潮騒の湯「アマネム」

2016年の春に誕生した、知る人ぞ知る「アマン」です。
三重県は志摩の合歓(ねむ)地域に、アマン初の温泉リゾートとして誕生しました。

見ておきたかったのは温泉はもちろんですが、それ以上に空間デザイン、ホスピタリティデザイン。
心が動かされること、記憶に残ること、自分に還ることができる深い安らぎ。そのためのかたちと振る舞い。
茶事・茶室はそれに対するひとつの解答と思われますが、また別のアプローチからも探ってみたいと思い立ったのが訪れるきっかけでした。

「常に小規模であること」に価値の重きを置いたアマンリゾーツは、そのプライベート感が最大の特徴とされています。
とはいえここで言うプライベート感、「他のお客さんと顔を合わせない」とか「貸切露天風呂がある」とか、そういう価値提供とはまったく異なるもののようです。

自分でも宿泊してみて、うーん、言葉にするのが難しいのですが。
「自分の居場所をそこに用意して、ずっと待っていた家族のように歓待してくれる」
「子どものころ、年に一度しか会えないけど大好きな祖父母の家に遊びに行って夢のように嬉しい時間を過ごす」
後者の方が自分の実感に近いかもしれない。
そんな、人生の1ページにそっと残しておきたくなるような「プライベート感」がここにはあると思いました。


さて、空間デザインについて。
部屋に入ると、正面の大窓に英虞湾の絶景が広がります。そのまま誘われるようにテラスへ出る。真珠とアオサノリの養殖が盛んなようで、いくつか海苔網と行き交う漁船が見えます。
時は昼過ぎ、テラスのソファベッドに寝そべり、眼下の海に目を向ける。いい秋晴れの日です。

志摩のリアス式海岸がつくる英虞湾は、深い入江になっています。波はほとんどなく、わずかに下の崖にぶつかる波音が聞こえるだけ。
湾の手前には、深い自然林が広がっています。ここは野鳥たちの群生地になっていて、常に多くの鳥たちが飛び交います。フワッと蝶々が上空に飛んだかと思うと、突然飛来してかっさらっていく渡り鳥。急に薄暗くなったかと思うと、大きいトンビが頭上の太陽を遮ったみたいだ。
ここで繰り広げられる生命のドラマは、極上のショーのようでもありました。

場としては静謐、なのでしょうが、
しかし、聞こうと思えばいくらでも聞こえる音があることに気づきます。
徐々に近づき、そして遠ざかっていく漁船のモーター音。鳥たちの絶え間ないさえずり。ときおり吹き上げる浜風にざわめく草木。秋のバッタが競うように奏でる羽音。
自然はこんなにも雄弁であり、極上のアンビエント・ミュージックのように思えました。

また、意匠的な面で触れるならば一番印象に残っているのがマテリアルです。造形については日本の伝統家屋をモチーフにしながら、シンプルだけど力強い空間。建築的に有機的なラインを描いている部分はほとんどないのですが、すべての素材選択において圧倒的な洗練さとあたたかみを感じさせてくれます。どれもモダンだけど手触り感がある。カラーコーディネートもシックで品格に満ちている。特に石材の使い方が凄いなあ。
すべてのインテリア、小物もこの素材感が完全にコーディネートされています。隙が無い。

天然温泉が注がれるバスは、近くに湧く潮騒温泉から引いているとのこと。低張性アルカリ泉のナトリウム-塩化物温泉。色は薄い黄土色。なかなか濃厚な印象を受けました。源泉は37℃くらいとのことで、少し加温。湯量確保のために加水。循環もしてますが湯質は満足できるものでした。石造り浴槽も、目の前には英虞湾が見渡せ、半露天風呂のよう。ゆったり過ごすことができます。

レストランとバーラウンジ、ライブラリ、プールを備えるレセプション棟も美しい建築とランドスケープです。気持ちいいほどにシンプルな切妻の屋根が空間全体の日本的な顔立ちを演出します。ちなみにライブラリには江戸時代に複写された「日本書紀」があり、震える手で開いてきました。なかなか触れるものではありませんので感動しました。

ちょっと離れたスパ棟も、建築とランドスケープのコンセプトは同様。中央に配されたオープンエアーのサーマルスプリング(温泉プール)は欧米的で優雅な温浴ガーデンです。ちなみにスパ用個室は満室でした。大人気の様子。

建築と内装はオーストラリアの建築士kerry hill氏。
うーん、すごい。


そうだ、食事に関して触れておきます。
ディナーのコースは4種類。今回はアラカルトで先付け八寸、造り盛り合わせ、ブイヤベースなどをお願いしました。どれも非常に手をかけ丁寧に造られたことが感じ取れます。柚子胡椒をかすかにきかせたお浸し、伊勢海老味噌が濃厚なブイヤベースはその後のリゾットも含めて絶品。
ちなみに宿泊した日、お客さんの8割くらいが海外の方だったようです。スタッフの方に伺ったところ、客層は海外の方が圧倒的に多いとのこと。日本酒の品揃えも20種類くらいで豊富。日本人でも十二分に楽しめる、味わいも演出も素晴らしいものでした。


最後に。
地元出身の方、若いスタッフの方が多いですが、おもてなしのあたたかい姿勢は浸透していてとても心地よかったです。成長を見守りたくなるスタッフの方がいっぱいいました。
彼・彼女たちの働きぶりに触れながら、もうすぐ社会人になって10年、刺激を受けるところもたくさんあります。

自分の提供するものが目の前にいる人の喜びへダイレクトに繋がるよろこび。
誰かをおもいはかることのやりがい。
仕事っておもしろいよなあ。


アマネム、いろいろなヒントをもらえました。
インスピレーションを求めている人に是非オススメしたい特別な場所です。

賢島駅からお迎えのレクサスで15分。こちらのパビリオン棟へ通されます。

マネージャーの方から施設内の案内を受けます。東京ドーム4つぶんの敷地面積。

電気自動車で移動。どこにいても迎えに来てくれます。

宿泊した部屋のファサード。シックな顔立ち。

天井は高く、暖色の間接照明がぬくもりに満ちた空間を演出してくれます。直線の切り方が大胆だからそれでいてキリッともしている。

支配人さんからのウェルカムメッセージ。

部屋の正面には英虞湾の風景が広がります。思わずテラスに出てしまう。

ソファがふたつ、テラス席がひとつ。写真奥のソファが僕の定位置になりました。

時間によって刻々と表情が変化していく英虞湾の風景。アオサノリと真珠養殖の網がのどかな漁師町の風景です。

天然温泉の浴槽と洗面まわり。小物ひとつとってもすばらしいクオリティ。

浴槽のマテリアル。この石材が全体の基調になっていてほんとに気持ちいい。

こちらはレセプション棟。バーラウンジ、ライブラリ、ダイニング、インフィニティプールを併設。

切妻の屋根、ルーバー壁。おおらかなスケールのとりかたはヨーロッパ的な印象。

こちらはライブラリ。地元の若手アーティストさんの屏風が飾られている。

驚きの日本書紀。江戸時代に書かれたものだそう。

震える手で取り出す。これ、本当は手袋するやつですね…。

最初の何章かと最後だけ開きました。中身を知っているからかもしれませんが、わりと普通に読めます。

周辺エリアの海図も見せてもらいました。

こちらはスパ棟。ルーバーがずっと続くコリドー型。

ジムスペース。すごく最新の乗ってるだけで脂肪がブルブルなってめっちゃ痩せるらしいやつを見せてもらいました。

アクアティックボディワークの部屋。水中ヨガ的なもの。日本ではここでしかやってないらしい。

スパ棟の中央にはサーマルスプリング(温泉)。水着着用で、だらだらするところ。36℃くらいと40℃くらいのふたつ。

ナトリウム-塩化物温泉。厳選は60℃オーバー。循環はしている様子だが濃厚でいいお湯でした。

日が落ちたテラス。暗くなろうと外で過ごします。虫の鳴き声がすごい。

レセプション棟に向かい、ダイニングにて夕食。こちらは先付け八寸。柚子胡椒風味のお浸しがかなり美味。

伊勢志摩の海の恵み盛り合わせ。地元のアオサノリが驚異的な美味さ。それが一番だった。

ブイヤベース。解禁直後の伊勢海老から濃厚な出汁が出ている。鼻血が出そうにうまかった。

テラスより朝日を眺める。

朝日がバッチリ入ってきて、なんかいい雰囲気になります。

徐々に明るくなっていきます。オレンジ色が空と海に広がっていく様子がとてもうつくしかった。

朝食会場へ。一番乗りだった。夜は見えなかった英虞湾が見える。

朝食の和箱。湯豆腐が出汁を含めて感動的なうまさ。

焼物もついてくる。朝からすごいボリュームだが問題なく食べてしまった。