2. 表層 海面直下
(クジラの近くを、海面の流れ藻が漂う。そこにはヨコエビやギンポなど、様々な生物が棲み着いている)
「この海に生を受けたばかりの生命たちが…なんと愛おしい…」
(生まれて間もない小魚が顔を出して、クジラの周りに近寄り、無邪気に泳ぎ回る。すぐそばで親魚たちが心配そうに見守っている)
「はは…くすぐったいな…ありがとう。」
「私も、こんな頃があった…母さんの後ろを必死について泳いでいたな…今となっては遠い昔のことだが…」
「みんな、元気に育って、すてきな伴侶を見つけて、たくさんの子孫を残すんだぞ…お父さんやお母さんと同じように…」
(成体のアオリイカのオスメスが藻場を訪れ、産卵の様子を見せる。ホンダワラに産卵するメスの成体。オスは近くでボディガードのようにメスを見守る。産卵が終わると、オスがメスの近くに寄り添い、泳ぎ去っていく。藻場に産み付けられた卵が宝石のように白く輝く)
「ここは海に漂う、生命のゆりかご…新たな生命たちが誕生し、成長し、そして大海原へと旅立っていく場所…」
「さらばだ、そしてありがとう、まぶしくかがやく生命たち…私は先にいかせてもらおう…」
(小魚たちに見送られ、クジラはゆっくりと沈んでいく)
3. 中層 水深200m
(沈んでいくクジラ。海の青が少し濃くなってくる)
(そこへ突然大きなジンベエザメが現れる。沈みゆくクジラの周りをゆったりと泳ぎ始める。近くにはイトマキエイやマンタなどの姿も見える)
「久しぶりだな、ジンベエザメ…最期に顔を見せに来てくれたのか…」
「お互い長いこと生きてきたものだ…むかしはあんなに小さかったのに、今やそれぞれ多くの子孫に恵まれた」
(ジンベエザメの周りをぴったり寄り添って泳ぐたくさんのコバンザメや小魚たち。子供のジンベエザメも何匹か泳いでいる)
「お前もすっかりこのあたりの主のようだな」
(そこへ回遊魚の大群がやってくる。クジラの前を横切っていく青魚。それはクジラがかつて一緒に世界の海を旅した回遊魚たち、そしてその子孫たちだった)
(クジラの周りをキラキラ光る回遊魚の大群が泳ぎ回る)
「おお、おまえたちも来てくれたのか…」
「世界を旅する魚たち…私も若い頃は、一緒に世界の海を泳ぎまわったものだ…時には太平洋を超えて、はるか遠くの大陸まで…」
(大群が調和しキラキラと輝きながら、まるで生命を持っているかのように次々とかたちを変えていく。上部からは太陽の光が注ぎ、魚に輝きを与える。)
「今まで魚の群れをまじまじと見ることなどなかったが…なんと美しい…」
「おまえたち、次はどこの海へ向かうんだ…?」
「私ももう一度世界へ旅に出たいところだが…それは、少々叶わないようだ…」
(大群は少しずつクジラから離れていく。クジラはそのまま沈んでいく)