POWER OF SPRING温泉力をもらいに

2016.10.17
三重の田舎町を背負って立つ「片岡温泉 アクアイグニス」

観光・リゾート系の企画のプロジェクトでは、最近のベンチマーク施設として三重県のリゾート施設「アクアイグニス」の名前がよく登場します。
2013年10月にそれまで「片岡温泉」と称する温浴施設をリニューアルして誕生しました。

わかりやすい特徴としては

【食】全国的に有名な料理人3名によるプロデュース
・有名パティシエの辻口博啓氏が手がけるパン屋とスイーツショップ
・山形アルケッチァーノの奥田政行氏のイタリアンレストランとファーム
・恵比寿賛否両論の笠原将弘氏の割烹レストラン

【温泉】加水・加温・循環なしの100%源泉かけ流し温泉
ナトリウム-炭酸水素・塩化物温泉のアルカリ単純泉。
ごく間近にある湯の山温泉は開湯1300年の歴史で、近くの御在所岳の修験者たちが浸かっていたとの歴史も。

【宿泊】
通常の宿泊棟に10室。
また、貸切の離れとして4棟。それぞれが異なる建築家の手によるもので個性的な空間になっている。それぞれの棟に温泉付き。
今回は一番人気と思われる「檜」と「杉」に宿泊してみました。

オープン以来、一躍東海〜関西エリアでは有名な観光スポットに。
かけ流しの良質な天然温泉と、洗練された食体験を求めて多くの人が訪れているようです。
突然こんなリゾート施設ができちゃったものだから、地元の人もびっくりでしょう。しかし地元の幅広い世代の雇用創出にも大きく貢献しているようで、若い世代にとってはここで働くことが憧れになったり、レベルの高いサービスレベルに触れられたりと、まちを元気にしている場の好例なのではないかと思っています。

さて、まず一番目当ての温泉ですが、これが噂にたがわぬ素晴らしさ。湯温は40℃くらい。入らずとも明らかなヌメリ感が見てとれます。お湯の色は薄い黄緑色。香りは多少の硫黄臭。心地よい香りです。
そしてかけ流しがよかった。「檜」の風呂は300Lくらいの檜張りの浴槽に対して、たぶん5L/分くらいの注湯量。1時間でお湯が入れ替わるくらいの計算です。いつでもフレッシュでキレイな状態で入れる嬉しさに勝るものはありません。そして明らかに加水も循環も塩素消毒もされていない素晴らしい湯質。居室に囲まれた中庭的なデッキ部分に配置されているのも、温泉中心の滞在をするには素敵なレイアウトだと感じました。
もうひとつの「杉」のお風呂は、石造りの浴槽です。湯量は400〜500Lくらいあるでしょうか。だいぶゆったりしています。こちらのお湯は注湯方式が底からになっています。浴槽に注がれるまでに空気に触れないため、フレッシュ感はこちらが上でしょうか。上部がオープンエアーなので、開放感もこちらが上です。好みは分かれるところでしょうか。個人的にはシックな「檜」が好きでした。
大浴場や露天もありますが、けっこう人気施設のため人がたくさん出入りしています。アルカリ泉は汚れが浮きやすいため、たぶんお湯のダレが気になるはず。離れの風呂が断然にオススメです(金額に跳ね返ってくる部分はありますが…)。

次に、食です。
最近は(まったく専門ではないのですが)飲食施設の企画が不思議と多いため、勉強がてらです。
三名の有名料理人が集まり、それぞれにショップやレストランを展開。自分の好みに合わせて選んだり、連泊やリピートならば都度違う楽しさを味わえます。
今回伺ったのは賛否両論の奥にある隠し割烹「露庵温味」。席はカウンター9席だけ。たぶん賛否両論とはオペレーションが別で、料理人さんも専属の方が1名。賛否両論の方はけっこう騒がしいので、静かに美味しいお酒を呑みたい場合はこちらでしょう。
和食のコースは大変美味しかった。季節のもの、地のものが目の前で調理されるのを眺めながら頂くのはやはり楽しい。印象的だった品は「クエの造り」「焼きフグ」。また次にアクアイグニスで食事をするなら、個人的にはこちらを伺うだろうなあ。
2日目の夜には「アルケッチァーノ」へ。サッパリと軽やかに食べさせてくれるイタリアンでした。「沖シジミのリゾット」が珍しくて美味しかったかな。
個人的な感想ですが、空間はどこにあってもおかしくない立派なリストランテだったですが、逆に言うともうちょっと土地の個性が見えたらより良かったかも。地元の建材、民芸、植物など。でもここのレストランの需要は足下(地元の方々)だろうから、これでもいいんだろうなあ。
最後に、オペレーション。
個性的な建築やランドスケープはもちろん印象的でしたが、好感が持てたのが運営です。
たぶん働き手は地元の方ばかりでしょうが、一生懸命なおもてなしの姿勢を感じます。
すれ違うスタッフの方はみんなにこやかに挨拶してくれます。掃除のおばちゃんも、パティシエの女の子も、工事中の兄ちゃんも。
外構の水盤演出も、ゴミひとつ浮いてないことに驚きました。ちゃんと水を循環させてるし、掃除も見えないところで頑張ってくれてるんだなあ、と。

二泊三日の滞在でしたが、満足度は高かったです。離れが良かった部分もあるかも。
駐車場を見ると、三重ナンバーが7割、東海〜近畿が残り。関東は川崎ナンバーを一台見ただけでした。日帰り入浴のお客さんもすごく多かったです。
また、高速バスが60〜70歳くらいの団体さんを連れてやってきます。みんなで温泉入って、食事して、立ち去っていく。
平日だったからと言うこともあるでしょうが、お客さんの平均年齢は60歳くらい!予想よりだいぶ上で、地元利用が中心なようでした。

隣接する土地が工事中で、何やら温泉を掘っているような気が。アクアイグニス、まだまだ成長途上なのかもしれません。貴重な勉強になりました。

木と水が心地良い建築&ランドスケープ。自分の田舎に突然こんなのができたらたまげるだろう。

印象的だったのは水盤がきれい。ちゃんと循環しているようだったし、明らかに毎日掃除されている。水音があるだけでこんなに心地よくなるなんて。

個性的なアーチが続く。手前にはテラス席。建屋の中にはスイーツショップ。

スイーツショップが管理するストロベリー温室。

スイーツショップ店内。幅広に構えたカウンターの奥には忙しく作業する職人さんたちが。活気があってよい。

店内に併設されたカフェスペース。清潔感はあるけれどインテリアがちょっと軽い印象。

敷地内にはパン屋さんもある。ここもパティシエ・辻口氏のプロデュース。

広々とした店内はほっとする木が基調の空間。ゆったりくつろげる。窯焼きのパンのニオイもいい感じ。

長時間迷ってしまうほどの品揃え。40種類くらいあったような気がする。そして全部とびきりうまそう。

甘そうなやつから、辛そうなやつまで。

パティシエさんのお店だからか、VMDがお上手。この「焼きたまごサンド」はいかにも美味しそうで、翌朝の朝食メニューに決定。

大浴場と宿泊棟につながるエントランス。ちなみに離れの宿泊者はここではなく離れで直接チェックインとなる。個性的なデザインの待合ベンチ。

スーベニアショップ。食プロデューサー3氏のお土産が揃う。

地元間伐材のデザイン玩具。

手前はkotoriという靴べら。檜の部屋にもあった。なかなか可愛らしくて面白いデザイン。

なぜか線香花火の品揃えが豊富。地元に有名店があるらしい。共用部でやってもよいのかしら。

日帰り入浴用のシューズロッカー。ここらへんはスーパー銭湯の延長線上にある。

大浴場入り口にかけられた、長い長いのれん。天井が高いとこんな演出もできるから素敵。

脱衣場を出たところにある休憩スペース。大小様々なまんじゅうのようなクッションを自由にレイアウトできる。廃人のように横たわる家族連れならびにシニア多数。

テーブル席の休憩スペースも。バーではフレッシュジュースや地元産の牛乳が楽しめる。お腹が減ったらパンも買える。

離れへ向かうアプローチ。写真右側に見えるのが「檜」の離れ。宿泊者は直接向かってOK。途中でスタッフが出迎えてくれ、中でチェックインする。

檜の部屋はすべての部屋からアプローチできる中心にデッキ空間が。ここにこじんまりとした温泉。

お湯は薄い黄緑色。最初は小さいと思ったが。実は十分な湯量が掛け流されていて、いつも新鮮なお湯を楽しめた。

こんこんと湧き出る新湯。ポコポコという音も小気味いい。

ナトリウム-炭酸水素・塩化物温泉。単純温泉だがかなり濃厚な印象。美肌の湯だ。

夕食の「露庵温味」。賛否両論の奥にある隠し扉を開けるとここの割烹が登場する。

三重と言えば、クエ。お造りにて。塩でいただくのが美味かった。

翌朝は賛否両論にて。空間はちょっと居酒屋チックで寂しいかも。内容は良かったと思います。

この日はまた別の離れ「杉」にて。空間は小さい子供連れを意識か。デザイン玩具がディスプレイしてあった。

ここの一番の特徴はこれ。天井から吊り下げられたチェア?意外とハマってしまい、気がつくとここでゆらゆら過ごす時間が多かった。

外のテラス。野鳥たちがたくさん遊びに来てくれて賑やかだった。奥に行くと露天が現れる。

杉の露天。檜が木だったのに対して、石造り。個人的には檜が好み。こっちのほうが広いけど。

なんといっても底から新湯を入れているのは評価したい。空気に触れずフレッシュ。わかっている人がつくっている。

夜のほうが個性が際立つ建築だと思った。

水面にキラキラ、照明が映るのはなかなかフォトジェニック。近所に住んでたら手頃なデートスポットか。

二日目の夜はアルケッチァーノにて。空間が、高級感はあるんだけど、なんというか手触り感不足?な印象。でもこの立地と客層だとこれでいいのかも。

オキシジミのリゾット。珍しいものへの食いつきは凄まじい。

翌朝のモーニング。前述のパン屋さんで600円分のパンを購入し、こちらのプレートをカフェで受け取るという変わったスタイル。ちなみにパンだけ1200円分購入することも可能。

そして例の「焼きたまごサンド」。見た目に負けじと美味しかったです。

敷地内には奥田シェフがプロデュースする「畑ちぁーの」も。東京農業大学の先生が世話をしにきていた。いろいろ実験してるんですって。

真ん中だけがレタス。周りはキャベツ。
これで虫が卵を産んだりするのが減って手間が5分の1になるのだそう。

マリーゴールドはキク科なので違う科の野菜と一緒に植えておくと虫除けになる。
春菊も同じく収穫が終わってからのものを他の野菜と一緒に枯れるまで植えておくと虫除けになるのだそう。

これもどんな企みなんだろう。ちょっと儀式的で、不思議な農場。

最近はスーパーでもよくみかけるようになったスイスチャード。収獲サイクルが早いから家庭菜園でもオススメだそうだ。