観光・リゾート系の企画のプロジェクトでは、最近のベンチマーク施設として三重県のリゾート施設「アクアイグニス」の名前がよく登場します。
2013年10月にそれまで「片岡温泉」と称する温浴施設をリニューアルして誕生しました。
わかりやすい特徴としては
【食】全国的に有名な料理人3名によるプロデュース
・有名パティシエの辻口博啓氏が手がけるパン屋とスイーツショップ
・山形アルケッチァーノの奥田政行氏のイタリアンレストランとファーム
・恵比寿賛否両論の笠原将弘氏の割烹レストラン
【温泉】加水・加温・循環なしの100%源泉かけ流し温泉
ナトリウム-炭酸水素・塩化物温泉のアルカリ単純泉。
ごく間近にある湯の山温泉は開湯1300年の歴史で、近くの御在所岳の修験者たちが浸かっていたとの歴史も。
【宿泊】
通常の宿泊棟に10室。
また、貸切の離れとして4棟。それぞれが異なる建築家の手によるもので個性的な空間になっている。それぞれの棟に温泉付き。
今回は一番人気と思われる「檜」と「杉」に宿泊してみました。
オープン以来、一躍東海〜関西エリアでは有名な観光スポットに。
かけ流しの良質な天然温泉と、洗練された食体験を求めて多くの人が訪れているようです。
突然こんなリゾート施設ができちゃったものだから、地元の人もびっくりでしょう。しかし地元の幅広い世代の雇用創出にも大きく貢献しているようで、若い世代にとってはここで働くことが憧れになったり、レベルの高いサービスレベルに触れられたりと、まちを元気にしている場の好例なのではないかと思っています。
さて、まず一番目当ての温泉ですが、これが噂にたがわぬ素晴らしさ。湯温は40℃くらい。入らずとも明らかなヌメリ感が見てとれます。お湯の色は薄い黄緑色。香りは多少の硫黄臭。心地よい香りです。
そしてかけ流しがよかった。「檜」の風呂は300Lくらいの檜張りの浴槽に対して、たぶん5L/分くらいの注湯量。1時間でお湯が入れ替わるくらいの計算です。いつでもフレッシュでキレイな状態で入れる嬉しさに勝るものはありません。そして明らかに加水も循環も塩素消毒もされていない素晴らしい湯質。居室に囲まれた中庭的なデッキ部分に配置されているのも、温泉中心の滞在をするには素敵なレイアウトだと感じました。
もうひとつの「杉」のお風呂は、石造りの浴槽です。湯量は400〜500Lくらいあるでしょうか。だいぶゆったりしています。こちらのお湯は注湯方式が底からになっています。浴槽に注がれるまでに空気に触れないため、フレッシュ感はこちらが上でしょうか。上部がオープンエアーなので、開放感もこちらが上です。好みは分かれるところでしょうか。個人的にはシックな「檜」が好きでした。
大浴場や露天もありますが、けっこう人気施設のため人がたくさん出入りしています。アルカリ泉は汚れが浮きやすいため、たぶんお湯のダレが気になるはず。離れの風呂が断然にオススメです(金額に跳ね返ってくる部分はありますが…)。
次に、食です。
最近は(まったく専門ではないのですが)飲食施設の企画が不思議と多いため、勉強がてらです。
三名の有名料理人が集まり、それぞれにショップやレストランを展開。自分の好みに合わせて選んだり、連泊やリピートならば都度違う楽しさを味わえます。
今回伺ったのは賛否両論の奥にある隠し割烹「露庵温味」。席はカウンター9席だけ。たぶん賛否両論とはオペレーションが別で、料理人さんも専属の方が1名。賛否両論の方はけっこう騒がしいので、静かに美味しいお酒を呑みたい場合はこちらでしょう。
和食のコースは大変美味しかった。季節のもの、地のものが目の前で調理されるのを眺めながら頂くのはやはり楽しい。印象的だった品は「クエの造り」「焼きフグ」。また次にアクアイグニスで食事をするなら、個人的にはこちらを伺うだろうなあ。
2日目の夜には「アルケッチァーノ」へ。サッパリと軽やかに食べさせてくれるイタリアンでした。「沖シジミのリゾット」が珍しくて美味しかったかな。
個人的な感想ですが、空間はどこにあってもおかしくない立派なリストランテだったですが、逆に言うともうちょっと土地の個性が見えたらより良かったかも。地元の建材、民芸、植物など。でもここのレストランの需要は足下(地元の方々)だろうから、これでもいいんだろうなあ。
最後に、オペレーション。
個性的な建築やランドスケープはもちろん印象的でしたが、好感が持てたのが運営です。
たぶん働き手は地元の方ばかりでしょうが、一生懸命なおもてなしの姿勢を感じます。
すれ違うスタッフの方はみんなにこやかに挨拶してくれます。掃除のおばちゃんも、パティシエの女の子も、工事中の兄ちゃんも。
外構の水盤演出も、ゴミひとつ浮いてないことに驚きました。ちゃんと水を循環させてるし、掃除も見えないところで頑張ってくれてるんだなあ、と。
二泊三日の滞在でしたが、満足度は高かったです。離れが良かった部分もあるかも。
駐車場を見ると、三重ナンバーが7割、東海〜近畿が残り。関東は川崎ナンバーを一台見ただけでした。日帰り入浴のお客さんもすごく多かったです。
また、高速バスが60〜70歳くらいの団体さんを連れてやってきます。みんなで温泉入って、食事して、立ち去っていく。
平日だったからと言うこともあるでしょうが、お客さんの平均年齢は60歳くらい!予想よりだいぶ上で、地元利用が中心なようでした。
隣接する土地が工事中で、何やら温泉を掘っているような気が。アクアイグニス、まだまだ成長途上なのかもしれません。貴重な勉強になりました。