風のハルモニア師匠、仲間、憧れのひと

2017.03.23
ユニバーサルデザイン総合研究所所長・赤池学さん #4 「ありうべきものなのに、ない」をつくる

赤池 CSV(Creating Shared Value : 共有価値の創出)を提唱したハーバード大学のマイケル・ポーターからプレゼントされた言葉があるんです。

石川 はい。

赤池 彼は「これからの企業に望まれているのは、ユニークになるために闘うことだ」と言うんですね。

石川 僕も、自ら事業をやるようになってから、それはとても大切だと実感しはじめたところです。そのためにはどうしたらいいのでしょう?

赤池 ポーターは「まず最初に、過去の成功や失敗はすべて無視してユニークな事業を考えなさい。つぎに、その構想を実現したり社会実装するためには、従来のネットワークなんて何の役にもたたないから、独自のバリューチェーンをつくりなさい」とアドバイスしてくれました。そして最後に「もっとも大事なのは、やらないことを決めることだ」と結んだんです。

石川 身が引き締まるようなメッセージですね。

赤池 まさに箴言です。さすがポーターと思いましたね。

石川 僕も大事にさせていただきたい言葉です。これまで伺ってきた赤池先生の考え方とも通じますね。

赤池 「ユニークになるために闘うこと」の手段のひとつとして、僕が最初にお話しした「デザイン・フォー・オール」の捉え方があると思うんです。そういった機軸をもって、新しいバリューチェーン、新しい協業の形をデザインしていきたい。それが僕の考える「ユニーク」でもあるんです。

石川 そうですね。すとんと腑に落ちました。

赤池 ユニークなバリューチェーンをつくることができると、さまざまなステークホルダーが結びついて勝手にインフルエンスしていくので、事業総体のインパクトが自然と拡大していくんです。

石川 赤池先生の、その「ユニーク」を見出す目利きのちからは、どういったところからくるのでしょうか?

赤池 それはね、「ありうべきなのに、まだ世の中にない」ということですよ。

石川 ああ、なるほど。赤池先生の社会を見つめるまなざしの深さが、そこにあるのですね。

赤池 たとえばね、庭なんかでも、環境装置であり、高度な感性装置でもあるのに、どうして大手のハウスメーカーは住宅というと上物しか手がけないんだろう? と思うわけです。そこからLIXIL住宅研究所と協力して、住まいと庭をシステム化した商品住宅を開発しました。これは2年間で500棟くらい売れました。

石川 本質的で、なおかつ顕在化していないニーズを発見することでもあるんですね。

赤池 だから、「ありうべきなのに、まだ世の中にない」なんです。

石川 そのためには、本当にいいものを知っていることが大事ですよね。その知見をもとに、世の中をまっすぐ見直していく。僕たちの仕事はきっとその繰り返しなんですね。赤池先生のお言葉、あらためて胸に沁みました。最後になりますが、赤池先生のこれからの展望のようなものを伺えれば。

赤池 僕はいま、「農芸品」というコンセプトを考えているんです。

石川 「農芸品」とは?

赤池 工業製品には「工芸品」というジャンルがありますよね。でも、食の製品には工芸品に相当するものってないんです。

石川 たしかにそうですね。

赤池 日本には志のある生産者もいるし、高度な技を受け継ぐ職人さんもいる。最新のテクノロジーだって導入できます。ポテンシャルもクリエイティビティも高いのにもったいないよね。だから僕は、これから食の世界において、新技術、デザイン、クリエイティブをてんこ盛りにした「農芸品」というコンセプトでいろんな商品のプロデュースをしていきたいと思っているんです。
そのひとつが、鹿児島で作っている自然派ボトリングティーです。有機栽培の最高級茶葉を使って、もちろん水にもこだわって、さらに超音波技術まで導入して常温抽出したこれまでにない日本茶です。これが驚くくらい美味しいんですよ。

石川 すごい。シャンパンのような美しいボトルですね。

赤池 日本茶の概念がちょっと変わるよね。有機栽培にかける生産者の思いや、伝統的な茶葉の加工技能、日本ならではのハイテクノロジー、そして鹿児島の自然。それらすべてを物語として伝えられるよう、ボトルやラベルのデザインにもこだわり抜きました。おかげさまで、九州新幹線「ななつ星」にも入ってますし、ANAの国際線ファーストクラスや国内の高級ホテルにも採用されました。

石川 海外を視野に入れた製品でもあるんですね。

赤池 このくらいの独自性がないと、これからの世界でグローバルに渡り合っていけないと思うんです。この「農芸品」というコンセプトに基づいて、日本中の生産者や自治体と新しい魅力のある製品をつくっていきたいですね。

石川 やはり赤池先生は、僕が昔からやりたいと思っていることを、最先端で走っておられるんだなあと、あらためて感じました。
僕はその背中を追いかけるばかりですけど、少しでも近づけたらと思います。今後に向けてのすごくいい刺激を頂戴しました。
今日は本当にありがとうございました。

赤池 こちらこそ、楽しいひとときでした。…じゃあ、ちょっと早いけど一杯いきますか。

石川 はい!今日は蒲田、もしくは大森の地獄谷ですか?それとも…



(完)