6. 超深海 水深3000m以深
(やがてクジラも訪れたことの無い超深海の世界へ…泳いでいる魚はほとんど姿を消し、わずかな底生魚や甲殻類が見られるだけ。マリンスノーがしきりなく舞う幻想的な世界)
「なんという静かな世界だ…そして美しい…」
「いずれにせよ、ここが、私の終着地点のようだ…」
「もう動く力も残っていない…ここで静かに、その時を待つことにしよう…」
(海底に静かに横たわったクジラの光は周囲に少しずつ広がっていく)
(クジラから漏れた光に気づいたエビ、カニ、貝類などの海底の生き物がクジラのもとへ引き寄せられていく…)
「…こんな場所にも多くの生物が棲んでいるのだな……」
「そうか、お前たちは私の身体が目当てか…いいだろう、好きなだけ持っていくがいい…」
「これは、もはや、必要ないものだからな」
(クジラは少しずつエビやカニ、貝などの海底生物に食べられたり、微生物に分解されていく)
(クジラ(光)を食べた生物たちは、光をまといながら元気に海に舞っていく)
「もう自分で動かすこともできない身体だが…お前たちに生命を分け与えていると思うと、不思議とうれしい気持ちになるよ。なんだろうな、この気持ちは…」
(クジラを中心に海中に散らばっていく光。星空が海底に広がっているように見えてくる)
7.海に還る生命
(自分が失われながら広がっていく光を横たわり眺めていたとき、その光景が先に海面で見た星空と重なる)
「美しい…まるであの日、母さんと一緒に眺めた星空のようで…」
「………そうか……」
「…わかったかもしれない…海の生き物が星になるということ…」
「それは自分が海の一部になる…海のすべての生命たちの一部になるということ…」
「そうだったのか…母さんも、父さんも、みんな…すぐそばにいた…」
「ずっと一緒にいた…自分がそれに気づかなかっただけ…」
(母親がすぐ隣にいてくれたときの懐かしいぬくもりを感じ、そして生涯をねぎらわれた気がして、クジラの眼に涙がこぼれる)
「…母さんも、最期はこの深い海の底で輝く星空を見たんだろう」
「…ここが自分の還る場所なんだ」
「ずっと生きてきた、この大いなる海の一部になろう…」
「さあ、この生命よ…
海へ 宇宙へ 未来へ…
どこまでも 広がっていけ…!」
8.エピローグ
クジラの姿は完全に光になった。
クジラの光はどこまでも広がり続け、海全体が光り輝いている。
クジラの生命によって金色に光り輝く地球。
静かに、クジラの声が響く。
「私の死は、海に生きるすべての生き物たちのためのもの…。」
「そう、私は…海とひとつになった。」
「母さんや父さん、今までみんなが、そうしてきたように…」
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生きとし生けるものは、この地球で生き延びるために
今までも、そしてこれからも
生命をつなぎ続けていくことでしょう
しかし、その過程にある
数え切れない死と生の繰り返しを
私たちは決して忘れることはできません
優れた遺伝子を子孫へつなぎ
自らの血肉を同胞へ分け与え
ひとつの生命の終わりが、すべての明日につながっていく…
そう、あなたは、ひとりぼっちではありません
いま、近くにいる大切な家族
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、
さらに、もっともっと上の世代まで…
数え切れない死と生の繰り返しから
あなたまで紡がれてきたものが
あなたの中に、あるのです
そしてまだ見ぬ未来の子孫たちへ
あなたが伝えたいものは
何でしょうか?