0.プロローグ
(宇宙の銀河、青々とした水をたたえた地球が浮かぶ)
「いま、私たちが生きている、この地球という惑星…」
「地球には、初めから現在のように多くの生命が繁栄していたわけではありません」
「気が遠くなるような膨大な時間の中で、これまでに数え切れない生物が生まれ、優れた遺伝子を残しながら、種を繁栄させてきたのです」
「それは、途方もない数の生と死の繰り返しが、現在の私たちの生命につながっていることを意味しています」
(視点はどんどん地球に迫っていき、大気圏を越え、雲を抜けて、大海原が現れる)
(夜の大海原に星々と満月の明かりが映っている)
「地球を満たす生命のスープ…海」
「最初の生命が海で誕生し、そこから進化を遂げてきたことを考えれば、海こそが、私たち人間も含めすべての生命の故郷と言えます」
「そして現在も、この海では多様な生命が、日々この海の中で生まれ、そして死を迎えています」
「今日も、一頭の年老いたクジラが、最後の一日を迎えようとしていました…」
1.海上にて
(海面近くから見た明け方に近い夜の大潮の海原、空には満天の星、そして満月が輝く。海面は、一年に数度の満月の晩のサンゴの一斉放卵によってきらきらと幻想的に漂い、海を白く輝かせている)
(徐々に夜が明けていく中、寿命が尽きようとしている年老いた一頭のマッコウクジラが夜の海面に浮かびあがり、澄んだ目で星空を眺める…)
「おそらく、今日が最後の一日だろう…ずいぶん長いこと生きたものだが…」
「最期に一度だけ、どうしてもこの星空を見たかったのだ…」
「まだ子供の頃…母さんと一緒に眺めた、この大潮の日の満天の星空、そして満月…やはり何よりも美しい…」
「そろそろ私も、そちらに行くときが来たようだ…」
(クジラは子供の頃、今は亡き母クジラと一緒に同じように大潮の夜に満天の星空を眺めながらこんな話を聞いたことがあった)
子「母さん、キレイだね…。いっぱい、キラキラ輝いてるのは、何なんだろう?」
母「そうね、あれは星と言うのだけれど…。そうそう、いい機会だから不思議な言い伝えを教えてあげるわ。海に生きる私たちは、死んでも人間みたいなお墓はつくらない。それは、私たちは死んだらみんな星になるから…だそうよ。ほら、そうすれば、どこの海からでも、こうやって見上げれば、いつでも星になったみんなに会えるじゃない」
子「ふ~ん。じゃあこないだ死んじゃったじいちゃんも、この中のどこかにいるのかな?」
母「…そうね。きっとどこかで、私たちのことを見守ってくれているはずよ」
(回想を終えたクジラは目を開く。そのとき強くひとつの星が輝く)
「元気にしてるかい、母さん…」
(その星に母を重ねたクジラは、晴れ姿を見せるように最期の力を振り絞り、一本の潮を強く吹く)
「今まで、ありがとう」
「さて…少し疲れたな」
「ゆっくり…いくとしようか」
(クジラはゆっくりと目を閉じて、静かに海へ沈み始める…。クジラからは光が少しずつ漏れていく)